Sachtler Ace L

 私は自動車の運転免許を持っていないので、撮影時の移動は徒歩と公共交通機関を利用しています。こういった移動手段の場合、撮影時の機材はできるだけ軽くしたいところです。そういった理由から、三脚についても必要最低限の機能でできるだけ軽くすることを目的に購入したのが、SachtlerのAce Lと三段脚のセットです。
 最近Sachtlerは様々な製品のモデルチェンジを行なっていて、昨年Aceシリーズもマーク2にモデルチェンジしたようです。マーク2へのモデルチェンジに伴ってAce Lモデルは廃止され、Ace MとAce XLの2モデル展開となり、本体のカラーリングやXLモデルのカウンターバランス切り替え段数や最大積載重量が若干改良されているようです。
 今回はSachtlerのAce Lについて記載しますが、現行品のAceシリーズ マーク2購入時の参考にもなると思います。

低価格が魅力なAceシリーズ

 Sachtler Aceシリーズの魅力はSachtlerブランドの三脚としては安価に購入できることだと思います。マーク2へのモデルチェンジや為替の関係で、現在は若干値段が上がっているようですが、私が購入した時はAce Lとカーボン三段脚にグランドスプレッダーのセットで10万円ほどだったと思います。
 現行品のXL マーク2ヘッドと三段脚のセットが14万円ほど。一方、ミドルレンジのヘッドであるFSB 8 マーク2が20万円、FSB 8 マーク2と三段脚のセットが32万5千円。FSB 8ヘッドのみと三段脚セットとの差額が12万5千円なので、75ミリボール用三段脚の価格がこの値段だとすると、XL マーク2ヘッドと三段脚のセットの14万円から12万5千円を差し引くとXL マーク2ヘッドの代金は1万5千円と驚きの低価格です。
 実際のところはそういう計算での値付けではないと思いますが、エントリー向けの商品としてかなり抑えた価格設定がされた商品だと思います。

写真 tr02_photo_01
Sachtler Ace Lヘッド、カーボン三段脚、グランドスプレッダーの組み合わせ(背景紙の関係で脚を中途に閉じています)

カウンターバランス

 Ace Lの最大積載重量は6kgカウンターバランスはフリー+7段切り替えです。tr_photo_02でヘッド背面にある黒いダイヤルがカウンターバランス設定用のノブです。無段階調整ではないもののかなりきめ細かく調整できるので、バランスをとった後で適度なトルクを入れればほぼ完全にバランスの取れた状態になります。
 FX30にAPS-C用のレンズ、ハンドル、ガンマイクを取り付けた状態だと、カウンターバランスのダイヤルは2程度に設定すればバランスが取れます。ミラーレスカメラでの使用であれば、カウンターバランスの調整値が不足することはないと思います。

写真 tr02_photo_02
Ace L ヘッドを斜め後ろから

トルク調整

 tr_photo_03でヘッド本体の回転部分にある銀色のダイヤルがトルク切り替え用のダイヤルで、3段+フリーの調整幅です。広角から標準レンズの使用時にはほぼ不満はありません。ただし、被写体をフォローするようなカメラワークでは快適に操作できるのですが、風景をゆっくりとパン・ティルトするといった操作では、もう少し重いトルク設定が欲しいかなと感じることがあります。
 また、望遠レンズを使った撮影でも、もう少し重いトルク設定が欲しいと感じます。およその焦点距離でAPS-Cセンサーで100mmを超える望遠レンズを使う場合、もう少し重いトルク設定のあるヘッドの方が楽に操作ができるように感じます。特にコンサートの収録のような長時間にわたる撮影では、軽いトルク設定で望遠レンズを操作し続けていると疲れてしまいます。

写真 tr02_photo_03
Ace L ヘッドを斜め前から

 ただし、Aceシリーズのフリー+3段というトルク調整機能は上位モデルのFSB6まで同じ仕様で、トルク調整機能のスペックが上がるのはFSB 8以上のモデルになります。FSB 8からはフリー+7段切り替えと切り替え段数が上がりますが、スペックの向上と共に価格や重量もグッと上がってしまいます。価格と重量を考えると、Aceのトルク切り替え仕様は妥当なスペックなのではと思います。

カメラプレート

 Sachtlerの三脚には、カメラに取り付けるプレートが三脚ヘッド上で前後にスライドすることで、カメラの前後の重量バランスを調節するタイプのものと、プレートそのものにはスライドする機構はなく、プレートを取り付けたヘッドの上部そのものがスライドしてカメラの前後の重量バランスを調節するモデルの2種類があります。Aceのプレートは、プレート自体が前後するスライドプレートです。
 プレートを前後させずにヘッド上部にスライド機構を組み込んだモデルの方が、カメラを取り付ける都度バランスを取る必要がないという利点がありますが、ヘッドの構造が若干複雑になる分、価格も若干上がります。Aceシリーズはコスト削減のためにスライドプレートを採用しているのでしょう。カメラのバランスを取るという点では、特に不便を感じることはありません
 ただし、スライドプレートはヘッド本体への取り付け方向が決まっており、カメラに取り付ける際には向きに気をつけなくてはなりません。脱落防止用の切り欠きの位置などの関係で取り付け方向が定められているのでしょうが、いちいち向きを合わせるのは若干面倒です。前後どちら向きでも取り付け可能な三脚も数多くあるので、形状に工夫が欲しかったところです。

重量

 機材の重量は、徒歩と公共交通機関移動での撮影の場合は重要な「性能」の一つになります。Aceシリーズの魅力として、冒頭では価格の手頃さを挙げましたが、重量が軽量なことも大きな魅力となっています。Ace L とグランドスプレッダー、カーボン段脚の組み合わせで4.1kg。例えばFSB 8ヘッドとカーボン三段脚の組み合わせにすると、6.3kgと1.5倍ほど重くなります。2.2kgくらいの差ならば我慢しても良いのではとも思えますが、2.2kg分交換レンズを多く持参できると考えると、APS-Cの5倍程度のズームレンズを3から4本分の重量となります。三脚のスペックを取るか、追加機材を取るか、撮影内容によって判断が変わるところだと思います。
 三脚を一カ所に据えて撮影する時間が長いような場合は、多少重い三脚でも高性能な三脚を使用した方が撮影作業が楽になり、結果的に良い素材を撮影することができます。しかし、三脚を担いで移動する時間が長いような場合に、重い三脚だと次第に疲労して撮影素材のクォリティが落ちてしまう恐れがあります。撮影内容によって一概にはいえませんが、三脚の重量は場合によって重要なスペックになります。
 ただし、軽いことによる弊害もあり、重いトルクに設定した状態で力任せに素速くカメラを振ろうとすると、三脚ごと傾いてしまうといったことがあります。トルク調整を最適な値に設定すれば済むことのように感じるかもしれませんが、基本的には重いトルクでのゆったりとしたカメラワークで撮影している最中に突然素早いカメラの動きが必要になるようなケースもあります。
 それでも、軽い三脚に対してはカメラバッグを吊るしてオモリ代わりにするなどの対策はできても、重い三脚を軽くすることはできません。軽さは重要な機材スペックの一つです。

工作精度と水準器

 価格の項で記載しましたが、Sachtlerの三脚としてはかなり安価な機材です。価格を抑えた分、それなりに割り切った造りになっています。ヘッドには「Germany」とドイツプロダクトであることを示す表記がありますが、カメラプレート取り付け部の裏側には「Made in Costa Rica」と記載され、組み立て自体はコスタリカで行われているようです。コスタリカで組み立てていることが精度に影響していることはないと思いますが、かつてのmade in Germany製品に見られるような精密感は乏しいです。これは、どこで組み立てているといった違いではなく、コストが影響しているのだと思います。
 三脚ヘッド本体には、多くの部品にプラスチックが使用されています。ただし、プラスチックの多用については軽量化に大きく貢献していると思われ、強度的に問題ない範囲でのプラスチックの利用はむしろ歓迎できる工夫だと思います。金属製だから果てしなく丈夫というわけではなく、落下などの強い衝撃を与えれば歪みが生じて精度が落ちてしまいます。これに対してプラスチックの場合、強い衝撃に対して歪むという作用は無く、割れるか割れないかの2通りなのは利点の一つと言えるかもしれません。
 精度的に今ひとつだなと感じるのが、水平器の信頼性です。カメラを三脚に載せた状態で単体の水平器をあててみると、私のAceではヘッドに取り付けられた水準器はちょっと傾いているようです。自分の三脚の水平器がどちら側に傾いているのかを覚えて、傾きを考慮して水平を調整する必要があります。また、建築物の撮影など画面の僅かな傾きが気になるような撮影では、カメラに単体の水準器を乗せて調整した方が良いかもしれません。ただし、これまで使ってきた多くの三脚で、ヘッドに取り付けられた水準器は傾いていました。相当に高価な三脚を除けば、三脚に装備された水準器の精度はそれほど高くないのが相場なようです。
 水準器の悪口を記載しましたが、Ace Lの水準器は小型のLED内蔵で、暗所で水準器を照らすことができます。この機能はホールでのコンサート収録などでは大変重宝します。水準器の照明機能はAce Mモデルにはなく、現行モデルではAce XLが照明付きの水準器搭載モデルになると思います。

写真 tr02_photo_04
水準器横のボタンを押すと…
写真 tr02_photo_05
小型LEDで水準器が照明される

 なお、水準器の傾きについて、水準器の取り付け精度が悪いのか、それ以外の部品や組み立て精度に問題があるのかは微妙なところです。ざっと関係のありそうなパーツを眺める限り、カメラプレートの工作精度にも微妙に難がありそうです。鋳造のみで整形されているように見えますが、本来はフライス盤などでの仕上げが必要なパーツなのではと思われます。

三段脚

 近年、三脚の伸縮時の操作を簡略化したフローテックという製品が登場しています。しかし、このフローテック脚は操作が簡便な一方で、やや重量がかさむといった欠点があります。75mmヘッド用のフローテック脚が3kgなのに対して通常の三段脚は1.8kgと、フローテック脚の方が1.6倍ほど重くなってしまいます。重量の項で記載したように、私の場合は機材が軽量なことも重要な選択要素の一つなので、通常の三段カーボン脚を使用しています。
 カーボン製の三脚は伸縮時の滑りが今ひとつなように感じますが、使っているうちに多少滑らかになってきます。他のカーボン三脚やリグパーツ用のカーボンロッドなどでも滑りの悪さを感じるので、カーボンパイプ全体として製造時の精度に限界があるのかもしれません。あるいは、カーボンパイプ独特な表面の模様が滑りの悪さに影響しているのではと思われ、特にAceシリーズやSachtlerの脚だけが滑りが悪いということはないと思います。

グランドスプレッダー

 動画用の三脚には、脚が広がりすぎないためのパーツとしてスプレッダーというパーツがあります。このスプレッダーにはグランドスプレッダーとミドルスプレッダーという2つのタイプがあり、グランドスプレッダーは地面に接地する三脚の先端を固定して脚の広がりを防ぎます。これに対してミドルスプレッダーは三脚の中ほどに取り付けて脚の広がりを防ぎます。グランドスプレッダーは脚の先端を固定するので、脚の伸縮時に脚の接地位置が変化することはないのですが、ミドルスプレッダーは脚の中間部分で固定しているため、脚を伸ばすと脚の接地部分は外側に広がっていきます。岩場や段差のある場所ではミドルスプレッダーが便利なのですが、平らな場所ではグランドスプレッダーの方が使い易いように感じます。
 Sachtlerの75mmヘッド用の脚に対応したグランドスプレッダーは、スプレッダーの先端に回転する機構がなく、スプレッダーを少し閉じたような状態で三脚を立てることができません。前回のpanorama7+7と組み合わせていたリーベックのスプレッダーには先端部分に回転する機構があり、三脚を閉じた状態でも上手く立つようになっています。
 転倒の心配があるので、通常はスプレッダーを閉じた状態で三脚を立てるといった使い方をしないものの、スプレッダーを開ききれない狭い場所での設置などでは、この「ちょい閉じ」状態で三脚を立てることのできるリーベックのスプレッダーはとても便利です。Sachtlerのスプレッダーにもこういった機構を取り入れて欲しいところです。

写真 tr02_photo_06
Sachtler 75mm用三脚のグランドスプレッダーの先端に回転機構はない
写真 tr02_photo_07
リーベック 100mm用三脚のグランドスプレッダーの先端には回転機構がある

パン棒

 Aceシリーズのヘッドに付属するパン棒は少し短い仕様のものです。パン棒は長い方がより微妙な操作がしやすくなります。短いパン棒が役に立つのは狭い場所での撮影くらいで、少しでも長い方が有利です。
 私は、FSBシリーズ用のパン棒を別途購入して交換しました。Aceシリーズ用のパン棒もFSBシリーズ用のパン棒も直径が同じなので、簡単に取り替えることができます。Sachtlerのホームページを見ると、FSBシリーズ用のパン棒には伸縮式のものもあるようなので、そちらを購入すれば良かったかと少し後悔しています。
 滑らかなカメラ操作に影響する部分なので、ここはコストをケチらずに伸縮式のパン棒を装備して欲しいところです。パン棒が長ければ、トルク調整の段数の少なさをカバーできるかもしれません。

まとめ

 カウンターバランスやトルク切り替えの確実さは流石Sachtlerブランドの製品と思える出来栄えです。数年使っていますが、今のところ故障などの問題はありません。価格とスペックを比較した時、かなりコストパフォーマンスの高い製品なのではと思います。
 三脚のサイズを考えると、積載重量やカウンターバランスの調整幅は十分だと思います。一方で、トルク調整は撮影シーンによってはもう少し重い調整域が欲しいと感じます。撮影用途によっては、トルク調整機構が1ランク上の製品を検討しても良いかもしれません。ただし、価格と重量を考えると、トルク調整幅の物足りなさを十分にカバーするコストパフォーマンスがあり、価格・軽量さ・使い勝手のどれを取るかは微妙なところです。これ一本で全ての撮影をカバーできる万能さはないものの、移動の多い撮影などでは高いパフォーマンスが期待できると思います。
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