ソニー製Eマウント用ズームレンズ
E 16-55mm F2.8 G
型番を「SEL1655G」として販売されているSONY製のAPS-C用Eマウントズームレンズについて記載します。2023年の9月末に大型家電量販店のネット通販で注文したところ、店頭在庫なしで1ヶ月ほど待ちました。人気商品なのか生産数が少ないのか、時期によっては入手までに時間がかかるようです。
このブログでご紹介してきた4本のレンズはそれぞれにそれなりの価格差があるにも関わらず、どのレンズもそれなりに良い写りをします。テストチャートを撮影した映像を拡大して観察するといったテストをすればレンズごとの違いが見えてくるのでしょうが、普通に4K動画を撮影してそこそこのサイズで視聴する限りではそれほど大きな差を感じません。特にE PZ 18-105mm F4 G OSS、E PZ 10-20mm F4 G、E PZ 18-200mm F3.5-6.3 OSSの3本は横並びといった印象です。
近年は非球面レンズや特殊低分散ガラスといった特殊レンズの製造コストが下がったのか、E PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSSのような安価なズームレンズにもそういった特殊なレンズが複数使われているので、一昔前の「入門用」といった位置付けの残念な写りをするレンズを見かけることは稀になったように感じます。しかしそう考え始めると、もう少しグレードの高いレンズと比較をしてみれば描写力の差がはっきりと見えるのではとも思います。そこで目についたのがE 16-55mm F2.8 Gです。このレンズのメーカー商品ページに掲載されているMTF曲線をみると、他のAPS-Cレンズに比べてかなり良好な値を示しています。このレンズとこれまでご紹介したレンズでは明らかな描写の差はあるのでしょうか。
また、このレンズで他にも魅力を感じる点として、ズーム全域でF2.8とこれまでご紹介したレンズの中では最も明るいF値なこと、リニア・レスポンスMFというマニュアルフォーカス機能を搭載していることがあります。それぞれについて、詳しくは以下で個別に記載します。
INDEX
デザイン
操作部分としてフォーカスリング、ズームリング、フォーカスロックボタン、AF/MF切り替えスイッチを装備しています。フィルタ径は67mmです。
レンズ本体部分はプラスチック外装のようです。レンズ先端部分だけが金属を思わせる質感で、恐らくフィルタ取り付けネジ部分を金属製にすることで強度を確保しているのではと思います。妙に複雑な材質構成になっているのがこのレンズ本体先端部で、フード取り付け用のバイヨネット部分はプラスチック製のようです。バイヨネットを金属から削り出すとコストがかかるため、プラスチック整形にしたのだと思います。プラスチック外装のおかげでサイズの割には軽量で、メーカーの商品ページによるとレンズ本体重量は494gです。
レンズ本体のサイズがそれなりに大きいので、各操作リング、スイッチはゆとりのある配置になっています。E PZ 10-20mm F4 Gのように小さい本体に各種スイッチ類を詰め込んだという印象はなく、スイッチに指が届きにくいとか、フォーカスリングを操作するとズームリングに触ってしまうといったことはありません。
望遠側にズームすると全長の伸びるタイプです。レンズ外装がプラスチックなこともあって、さほど重心の変化は感じません。ただ、ズーム操作をしてレンズを繰り出すときに、摺動部の擦れる音が若干気になります。
付属品としてレンズの前後キャップ、花形のバイヨネット式フード、ポーチがついてきます。ポーチはカメラバックにレンズを仕舞うときなどに地味に嬉しいです。
描写
仕様上のウリの一つはズーム全域でF2.8という絞り値です。ほぼ焦点距離が同じE PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSSに比べて広角側で2/3絞り、望遠側で2絞り明るくなります。このF値の小ささで、近接撮影時や望遠側での前景・背景ボケは16-50mmよりも期待できそうです。ただ、3倍程度のズームでF2.8という開放値はフルサイズセンサー用のレンズで比較的多く見られるスペックなので、センサーサイズが一回り小さいAPS-C用レンズならばもう一声ほしかったようにも思います。APS-C機器に求められるコスパ感や軽量さなどの兼ね合いを考えてF2.8が妥当なところだったのかもしれません。
こういった明るい開放F値であることや冒頭で記載した解像感はどうか、試し撮りの動画を撮影してみました。PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSSと焦点距離がほぼ同じこともあり、PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSSを試し撮りした時と同じ焦点距離とアングルで撮ってみたものがl05_movie_01です。ただしPZ 16-50mm F3.5-5.6 OSSの50mmで撮影したカットは最望遠を試すのが目的だったので、このレンズでは55mmで撮影しました。また、このレンズは電動ズーム非搭載のためかモニタに焦点距離が表示されないため、画面に記載した焦点距離はズームリングから読み取れる概ねの値です。FX30のピクチャープロファイル6で撮影した映像で、全てアクティブ手ブレ補正をonにした動画です。手ブレ補正の効き具合も参考にしてください。
PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSSの試し撮りと概ねの天候と撮影時間帯が同じになるように撮影したのですが、季節が異なるため太陽の高度が低く影の具合が違います。厳密には2本のレンズを交換しながら同じ景色などを撮影して比較した方が良いのでしょうが、2本のレンズの価格差を考えるとそれほど真面目に比較するのもどうかと思います。
試し撮り映像には右肩にカット番号を記載しています。どのカットも非常にシャープで、尚且つ発色が良いように感じます。カット4やカット6の金属の光沢感やカット2やカット7の木材の質感などがよく表現されていると思います。また、カット8のようなAFの使いにくい場面でも、後に記載するMF機能でピントを合わせやすいのも魅力です。
ちょっとオトナゲないのですが、PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSSと左右比較をしたものがl05_movie_02で、後半では200%に拡大して比較しています。この比較動画には、後でご紹介する手ブレ補正テストの映像も混在しています。
E 16-55mm F2.8 Gの方が開放F値が小さい(明るい)ので方や1絞り前後絞った状態と開放との比較になる部分もあり、不公平感があるのですが、レンズの開放F値が小さい(明るい)というのはそういった点でも有利なのです。
カット3の竜の彫刻などはPZ 16-50mm F3.5-5.6 OSSの開放でもよく写っていると思ったのですが、E 16-55mm F2.8 Gでシャープさが増しているので感心します。200%に拡大した映像を見ると、PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSSの方がボケているといったことはなくしっかりと合焦して見えるのですが、E 16-55mm F2.8 Gでは木目などの表現がより鮮明に見えます。
カット7の望遠で撮影した映像は2本のレンズで撮影時の合焦位置や光線の具合が異なるので一概に比較できませんが、E 16-55mm F2.8 Gの方がシャープでコントラストが高い映像になっています。
2本のレンズは絞り込むほどに描写の差は少なくなりますが、特に開放付近では値段なりの差が出ていると思います。色については撮影時の光線の具合が異なるので明確には言えませんが、E 16-55mm F2.8 Gの方が僅かに発色が良いように感じます。
l05_movie_01ではPZ 16-50mm F3.5-5.6 OSSとアングルを同じにするなど条件を揃えて撮ったために開放で撮影するといった条件を試せなかったので、捕捉的に撮影したものがl05_movie_03です。
カット10はPZ 16-50mm F3.5-5.6 OSSで場合によって逆光時のフレアが気になると記載したので、このレンズでも試してみたものです。PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSSほど長期間使っていないので、どの程度フレアが出やすいかは分からないのですが、頑張ってフレアの出る角度を探してこの程度です。PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSSほど気にする必要はないように感じます。
これまでどのレンズについても全体的に「開放からシャープに写る」と記載していますが、こういった表現はもうちょっと出し惜しみして使うべきだったかと反省しています。このレンズは開放付近のシャープさや発色の点で他のレンズよりも僅かに上回るように感じます。価格に見合った十分な写りだと思います。また、絞り込んだ映像ではありますが、カット15、16のような発色でこのレンズらしさがよく出るように感じます。
カット17、18、19はベタですがボケ具合を試したものです。このレンズのメーカーホームページには円形絞り云々などボケがキレイに表現されると記載されていますが、確かにキレイなボケ表現です。また後に記載しますがMF機能がユニークで、カット19のようなピン送りが簡単にできます。
ここでは映像を掲載していませんが、屋外でのLog撮影時に高輝度部分に見られる滲みも多少少ないようです。「FX30のS-Log3とPP6を比較」に掲載した映像はこのレンズで撮影したものです。
手ブレ補正
このレンズは手ブレ補正機能を搭載していません。そのため手ブレ補正の試し撮りといっても、FX30の手ブレ補正機能テストのようなものなのですが興味があったので試してみた映像がl05_movie_04です。
FX30のアクティブ手ブレ補正はよく効きます。05_movie_02の最初の2カットでPZ 16-50mm F3.5-5.6 OSSのレンズ内手ブレ補正ありと比較することができます。50mm付近の中望遠域ではレンズ内手ぶれ補正機能の有無で差が出るものの、広角域では大きな差はないように見えます。
歩き撮りを試したのがl05_movie_05です。歩き撮りについてもPZ 16-50mm F3.5-5.6 OSSと大きな差は見られず、広角ではカメラの手ブレ補正機能だけでも十分に手ブレを抑えることができるようです。
カメラボディの手ブレ補正機能がこの程度効くのであれば、レンズ内に手ブレ補正機能がないレンズも、広角から標準域であれば使用の選択肢に入れて良いように感じます。
リニア・レスポンスMF
冒頭でも記載しましたが、リニア・レスポンスMFという機能を搭載しているのもこのレンズの特徴の一つです。この機能は、MF操作時にマニュアルレンズのフォーカスリングを操作しているような感覚でフォーカスを操作できるもので、合焦する距離とフォーカスリングの角度が一致します。例えば2mの位置から10mの位置にフォーカス送りをするときに、フォーカスリングに目印を付けて操作しても合焦する位置を再現します。文字で記載するとピンとこないのですが、l05_movie_06をご覧頂くと意味がわかりやすいと思います。
一般的なAFレンズの操作感になかなか満足できない理由の一つに、クルクルと回ってしまうフォーカスリングがあります。こういったフォーカスリングは回転方向を入力するためのスイッチのような役目で、フォーカスリングの回転角度とフォーカシングのためのレンズの移動距離は必ずしも対応しません。しかしリニア・レスポンスMF機能を搭載したレンズの場合、極端な例えをすればフォーカスリングに合焦する距離を記入しておけば、マニュアルレンズとしても違和感なく使えそうに思います。ただし、カメラがスリープに入ったりカメラ電源を再投入すると、フォーカスリングと合焦位置の関係は数度ほどずれてしまいます。また、AF/MFの切り替えやレンズ交換をした場合も、フォーカスリングと合焦位置の関係はリセットされてしまいます。
この機能がないAFレンズでフォーカス送りをするときは、カメラ本体のタッチフォーカス機能などを使って機械まかせの操作をするくらいしかできませんでした。l05_movie_06のようにフォーカスリングに目印を貼るかはともかく、指先や手首の捻り具合を覚えておいてフォーカス送りをするといった操作ができるのは感動的です。フォーカスリングに距離メモリが付くと最高なのですが、そこら辺は今後に期待です。
今後に期待をもう一点記載すると、フォーカスリングの操作角をカメラメニューなどから変更できると便利だと思います。現在の操作角は一般的な写真用のレンズと同じ100度くらいで、焦点距離によっては僅かな角度誤差で合焦位置が大きく動いてしまいます。100度前後の操作角で素早くフォーカス操作が可能なのも便利なのですが、せっかくの電子制御なので270度くらいの操作角に切り替えることができると更に使い勝手が良くなると思います。
FX30を購入して、電子的な収差補正などの点でレンズとカメラ本体のマッチングを考えるとSONY製のレンズがベストだろうといくつか購入したのですが、マニュアルフォーカス機能に難点を感じていました。リニア・レスポンスMF機能はそういった不満の多くを取り除く操作感で、全てのAFレンズに組み込んで欲しいと感じる機能です。
全体として
レンズの描写周りの向上はほんの僅かな性能アップに対しての価格の上昇が大きく感じます。このレンズも希望小売価格が179,300円(税込)とSONYのAPS-C用レンズとしては高価な価格設定のレンズです。しかし解像度やコントラストの高い映像を編集時の処理で甘くするのは簡単ですが、その反対はなかなか難しい作業です。価格なりの性能が期待できるレンズだと思います。電動ズームが搭載されていませんが、カメラ本体の超解像ズーム機能を併用すれば1.5倍だけですが電動ズームのような滑らかなズーム表現も可能です。また、リニア・レスポンスMF機能はこのレンズの明るい開放F値で被写界深度の浅い映像を撮影する際には威力を発揮します。総合的には価格に見合った描写と操作性が期待できるレンズだと思います。