FCPのドロップシャドウエフェクト
Final Cut Pro(ファイナルカットプロ 以下FCP)には、画面内に配置したオブジェクトに影をつける「ドロップシャドウ」というエフェクトがあります。影をつけることで画面に奥行き感を出すことができますが、パラメータの値をどのように調整すればどの位置に影を配置できるかが、若干わかりづらいように感じます。今回は、「ドロップシャドウ」エフェクトのパラメータの働きを確認します。
INDEX
試す素材
今回ドロップエフェクトを適用してみる素材は、切り抜き処理を施したpng画像で、FCPに配置した画面が101_fig_01です。
この画像は、赤い印影部分の周囲のギザギザな輪郭に沿って切り抜き処理を施したpngで、101_fig_01で青い点で囲まれた部分がpng画像の範囲です。透明処理された余白部分は印影の周囲に少しあるだけで、画面全体を透明ピクセルが埋めているわけではありません。

今回ドロップシャドウを適用する画像素材
ドロップシャドウエフェクトは、こういった画面全体を透明ピクセルが埋めていないpng画像に適用しても、png画像の持つ透明ピクセルの範囲を超えて影を落とすことができます。
ドロップシャドを適用する
ドロップシャドウエフェクトは、エフェクトウィンドウの「表現手法」に分類されています。FCP ver11.0では、表現手法にはドロップシャドウしか格納されていません。

ドロップシャドウは「表現手法」に分類されている
エフェクトを適用するには、エフェクトウィンドウ内のエフェクトアイコンを適用したいタイムライン上のクリップにドラッグ&ドロップします。
101_fig_01にドロップシャドウを適用した画面が、101_fig_03です。印影の下側に影がつき、パラメータを調整するための各種ハンドルが表示されています。ハンドルの働きについては、最後に記載します。

ドロップシャドウを適用し、各種パラメータがデフォルト状態の影の表現
ドロップシャドウのパラメータ
エフェクトを適用したクリップのビデオインスペクタウィンドウに、エフェクトのパラメータ設定画面が表示されます。ドロップシャドウのパラメータ設定画面が101_fig_04です。影の色や形を設定するパラメータが並んでいます。パラメータの働きを順に確認します。

ドロップシャドウのパラメータ設定画面
カラー
「カラー」では、影の色を設定します。現在設定されている色を示す四角い部分をクリックすると、色を設定するカラーパレットが表示されます。101_fig_05では、「RGBつまみ」パレットで影の色を青に設定しています。カラーパレットは、上部の選択ボタンで好みの色彩設定モードに変更することができます。

カラーパレットを表示して、影の色を変更する
また、現在設定されている色を示す四角い部分の右にある下向きの矢印をクリックすると、簡易なカラーパレットが表示されます(101_fig_06)。このパレットは、数値入力で色を設定することはできず、パレット上の好みの色をマウスカーソルで選択して色を決定します。

簡易パレットを表示して、影の色を変更する
不透明度
「不透明度」パラメータでは、影の濃さを設定します。設定値は0から100で、単位は%です。スライダの操作や数値入力で設定します。101_fig_07は、値を100%に設定した状態です。

影の不透明度を100%に設定
プリセット
「プリセット」では、影の伸びる方向を4つのプリセット項目から選択します(101_fig_08)。好みのプリセット項目を選択した状態で各種パラメータの値を調整すると、プリセットの表示は「カスタム」になります。
プリセットを変更した時に変化する各パラメータの値を見ると、それぞれのパラメータの働きがわかります。

プリセットの選択項目
ぼかし
「ぼかし」では、影の輪郭をぼかす割合を設定します。設定値は0から100で、スライダの操作や数値入力で設定します。単位は表示されていませんが、おそらくピクセル単位だと思います。
101_fig_09はぼかしを0に設定し、影にボケが全くない状態です。

影のぼかしを0に設定した状態
ブラー減衰
「ブラー減衰」では、プリセットが「遠近(前方)」に設定されているときや、影が前方に伸びるパラメータに設定されているとき(以下に説明する「遠近(ポイント)」と「遠近の量」のパラメータで影の向きや歪み具合を調整できます)、減衰量を下げると遠方にいくほどブラー効果が減少します。単位は%で、設定値は0から100です。スライダの操作や数値入力で設定します。
101_fig_10は「ぼかし」を30、「ブラー減衰」を0%に設定した状態です。ブラーで影のぼかしを設定していても、ブラー減衰を0に設定すると影はぼけません。

ブラー減衰を0%にすると、ぼかしで設定した30という値は反映されなくなる
「遠近(ポイント)と組み合わせた際の効果の現れ方は、各種パラメータの説明後に改めて記載します。
位置
「位置」では、影の位置をxとyの座標値で調整します。単位はpxで、数値部分をドラッグ操作したり数値を直接入力して設定します。単位はpxですが、FHDの1920 ×1080といった座標を示すピクセル値とは関係なく、ドロップシャドウを適用したオブジェクトのサイズを「1」として値が表されます。
注意が必要なのは、x=0px、y=0pxでオブジェクトに影がピッタリと重なるパラメータではないことです。この座標は影の下中央の位置(101_fig_11で丸いハンドルが表示されている位置)を設定しており、x=0px、y=0pxで影の下中央部分がドロップシャドウエフェクトを適用したオブジェクトの中心に位置します(101_fig_11)。デフォルトの値はx=0、y=-0.5で、影の下中央がx座標ではオブジェクトの中央と同じ位置に、y座標がオブジェクトの中央からした方向に半分(0.5)だけズレていることを示します。
x=0px、y=0pxでオブジェクトに影がピッタリと重なるようなパラメータ設定の方が使いやすいと思うのですが、変なパラメータ初期値になっています。

位置の座標をx、y共に0に設定すると、影の下中央がオブジェクトの中央付近に配置される
遠近(ポイント)
「遠近(ポイント)」では、影の傾きなどを調整して遠近感を表現できます。x座標は影の左右の傾きを、y座標は影の上下の伸びを設定します。数値部分をドラッグ操作したり数値を直接入力して設定します。単位はpxですが、FHDの1920 ×1080といった座標を示すピクセル値ではなく、オブジェクトのサイズを「1」として、影の上部中央にある青いハンドルの位置がオブジェクトの中央からどの程度ズレているかを示します。
影は、x座標の値を+方向に増加させると右に、-方向に減少させると左に傾きます。101_fig_12はx座標を1.5に設定した状態で、影が大きく右に傾いています。この時のxの値は、影の上部中央の位置が、オブジェクトの中央からオブジェクトの横幅の1.5個分右側(プラス方向)にあることを示します。

遠近(ポイント)のxの値を操作すると、影の伸びる方向が左右に変化する
y座標の値を変化させると、影の下端の位置は変化せずに影の上端の位置が上下に変化します。101_fig_13はy座標を1.2に設定した状態で、影が大きく上に伸びています。この時のyの値は、影の上部中央の位置が、オブジェクトの中央からオブジェクトの縦幅の1.2個分上側にあることを示します。

遠近(ポイント)のyの値を操作すると、影の伸びる方向が上下に変化する
遠近の量
「遠近の量」は、遠近(ポイント)の設定でオブジェクトの前後に影を伸ばしているとき、オブジェクトから離れるほど影の大きさを変化させることで、遠近感を表現することができます。設定値は0から1で、スライダの操作や数値入力で設定します。
101_fig_14は、オブジェクトの右後方に伸びる影に対して遠近の量を0に設定した状態で、影の大きさは、オブジェクトから離れても変化していません。

遠近の量が0のとき、影は平行に伸びる
これに対して101_fig_15は、遠近の量を最大値となる1.0に設定した状態で、影がオブジェクトから離れるほど大きくなっています。

遠近の量の値を大きくすると、影は遠方ほど大きくなるよう表現される
101_fig_16は、オブジェクトの右前方に伸びる影に対して遠近の量を0に設定した状態で、影の大きさはオブジェクトから離れても変化していません。

影がオブジェクトの前方に伸びる場合も、遠近の量が0のとき、影は平行に伸びる
これに対して101_fig_17は、遠近の量を最大値となる1.0に設定した状態で、影がオブジェクトから離れるほど大きくなっています。

影がオブジェクトの前方に伸びる場合も、遠近の量の値を大きくすると、影は遠方ほど大きくなるよう表現される
遠近の量は、遠近(ポイント)のy値が-0.5から0.5の範囲内のとき、つまり影の上部がオブジェクトの高さの範囲内にある時はサイズが小さくなるよう作用し、-0.5よりも小さいか0.5よりも大きいとき、つまり影の上部がオブジェクトの高さの範囲を超えた位置にある時にサイズが大きくなるように作用します。
ブラー減衰の遠近(ポイント)への反映
「ブラー減衰」パラメータは、「遠近(ポイント)」「遠近の量」の設定と組み合わせたときに効果を発揮します。101_fig_18は「遠近(ポイント)」で影をオブジェクトの前側に伸ばし、遠近の量で影が遠くほど拡大されるよう変形させた状態です。
この設定のとき、ブラー減衰のパラメータ値を小さくするとオブジェクトに近い影ほどブラー効果が発揮され、遠ざかるにつれてブラー効果の影響はなくなります。
影がオブジェクトの前方にあるだけでなく、遠近の量が0以上に設定されていないと効果は発揮されません。

影がオブジェクトの前方に伸び、なおかつ遠近の量が大きく設定されているとき、ブラー減衰の値が小さいと影へのブラー効果の現れ方はオブジェクトの近くほどボケが大きく、遠くは小さくなる
同じ遠近(ポイント)と遠近の量の設定で、ブラー減衰の値を大きくすると、影はオブジェクトから近い位置も遠い位置も均一にブラー効果が発揮されます。101_fig_19では、ブラー減衰の値を最大値の100%まで上げています。影はオブジェクトからの遠近に関わらす均一にボケています。

ブラー減衰の値が大きいと、影へのブラー効果の現れ方は均一になる
101_fig_20では、遠近(ポイント)と「遠近の量」の値を、オブジェクトの後方に影が伸びるよう設定しています。この時、ブラー効果を0%にすると、影の輪郭はどの部分もぼかしの値が反映されない表現になります。影をオブジェクトの前に配置した101_fig_18の場合のように、オブジェクトの距離によってブラー効果の現れ方が異なるような仕上がりにはなりません。

影がオブジェクトの後方に伸びているとき、ブラー減衰の値を小さくするとブラー効果は均一に小さく表現される
同じ遠近(ポイント)と「遠近の量」の設定でブラーの減衰の値を大きくすると、影には均一にブラー効果が発揮されます(101_fig_21)。

影がオブジェクトの後方に伸びているとき、ブラー減衰の値を大きくするとブラー効果は均一に大きく表現される
本来はオブジェクトから遠ざかるほど影の輪郭がボケるのが、自然な遠近感の表現です。ブラー減衰設定でのボケ変化の現れ方は、遠近感を表現するための効果としては逆のようです。また、影の位置がオブジェクトよりも後方に設定されているときには、オブジェクトとの距離に伴ったボケ方を再現しないなど効果の現れ方が中途に感じられ、使い所の無さそうなパラメータです。
ハンドルの働き
パラメータの働きを一通り確認したところで、ドロップシャドウ適用時に影の部分に表示される各ハンドルの働きについて記載します。
101_fig_22で下中央の丸いハンドルで、「位置」の値を調整します。このハンドルの位置座標が、オブジェクトの中心に対して影がどの程度ずれているかを示しています。
位置を動かす丸いハンドルにぶら下がるようなグレーの円で、影をぼかす量「ブラー」の値を調整します。なお、影がオブジェクトよりも後方のときはグレーの丸は位置調整ハンドルの下側に、影がオブジェクトよりも前方のときは上側に表示されます(101_fig_19等参照)。

影の周囲に表示されるハンドルで、いくつかのパラメータを調整することができる
影を取り囲む四角い枠やその内側をクリックして、影の位置を変更することもできます。枠の実線と点線の差は、機能の差ではなく影の座標を示す点(位置調整を行うハンドル)を含む辺が実線で、それ以外が点線で表現されているようです。
上中央の青い四角いハンドルで、「遠近(ポイント)」の値を調整します。左右に操作することでxの値を、上下に操作することでyの値を設定することができます。
上部左右の白く四角いハンドルを左右に操作することで、「遠近の量」の値を調整することができます。左右いずれのハンドルを操作しても、左右2つのハンドルは青いハンドルを中心として左右対称に移動します。
アニメーション表現
上記で紹介した全てのパラメータには、キーフレームを追加することができます。影にアニメーション処理を加えることで、影を発生させている光源に対してオブジェクトが移動している様子や、逆に光源が移動している様子を表現することが可能です。キーフレームの操作は、他のエフェクトなどの場合と同様です。「FCPのアニメーション機能 その5」などを参考にして下さい。
まとめ
ドロップシャドウは、画面に遠近感を加えるのに便利なエフェクトです。しかし、座標パラメータの単位や座標の決め方が独特で、ちょっとわかりにくい部分があります。また、ブラー減衰パラメータは、効果の現れ方に統一感がなく、いま一つ使い所のないパラメータ設定のようです。細かなパラメータの違和感はあるものの、全体としては空間感を表現するような影を手軽に作ることができ、便利なエフェクトです。
オブジェクトを背景から浮かせたとき、オブジェクトを背景から遠ざけると影が大きくなるような、影そのものの大きさを調整する機能がないのが残念なところです。