TASCAM DR-701D 〜カメラと同期可能なオーディオフィールドレコーダー

 オーディオ機器メーカーのTASCAMは、カメラと組み合わせて使用するためのオーディオフィールドレコーダーを多数販売しています。今回ご紹介するDR-701Dは、カメラから出力されるHDMI信号を使って同期収録できるのが特徴です。私がDR-701Dを購入したのは2017年ですが、発売日を調べてみると2015年11月とかなりのロングラン商品です。

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TASCAM DR-701D本体

購入のきっかけ

 DR-701Dを購入したきっかけは、BlackmagicdesignのBlackmagic Micro Cinema Camera(以下BMMCC)での撮影時に、ソニーのオーディオレコーダーPCM-D100で別に録音した音声とのズレを体験したためです。30分から1時間ほど連続して録画・録音したのですが、編集時に音を合わせてみると30分で2フレームほどのズレがあり修正に大変苦労しました。この時に、同期収録できる録音機の必要を強く感じました。

外部同期という方法

 カメラやオーディオレコーダーは、内部に組み込まれた水晶を使った発振機で録画や録音の進み具合を管理しています。その水晶発振機の精度が低いと、複数の機材で収録した場合に素材ごとにズレが生じます。前記の場合、BMMCCの精度が悪かったのかPCM-D100の精度が悪かったのかは分かりません。ただし、精度の高い機材を使ったとしても、長時間の収録になると少なからず誤差は出てきます。
 より確実に2つの機材のタイミングを合わせるには、収録機材の時間の進み具合を決める発振機からの信号を2つの機材で共有するのが適当な方法です。これは、外部同期といわれる方法なのですが、この方法で収録できる機材はどうしても高価な業務・放送用の機器になってしまいます。しかし、調べてみるとTASCAMのDR-701DはHDMI信号を使った外部同期ができ、価格も6万円弱と外部同期で収録できるオーディオレコーダーとしては驚くほど安価だったので早速購入してみました。届いたDR-701DとBMMCCをHDMI接続して収録してみると、1時間近くの収録でもBMMCCで映像と共に収録した音声とDR-701Dで収録した音声とにズレはありませんでした。

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DR-701DのHDMI入出力端子

FX30と組み合わせる

 その後、音声を別に録音するような撮影をする機会はなく、DR-701Dは単体のオーディオレコーダーとして使用することが多くなりました。しかし、現在メインで使用しているFX30との組み合わせでの動作が気になり、今回改めて同期機能を中心に試してみました
 TASCAMの動作検証ページにFX30の名前はないのですが、同期やRECトリガーなどは問題なく動作し、30分の収録でFX30で収録した音声とDR-701Dで収録した音声にズレはみられませんでした。それどころかHDMI信号での同期を行わない、非同期の状態でも大きなズレは発生しませんでした。FX30、DR-701D共に内蔵した発振機の精度は非常に高いようで、HDMI信号での外部同期をしなくとも充分な同期収録ができるかもしれません。
 しかし、収録時の気温やカメラそのものの発熱により、発振機の精度が低下するといった不安もあります。また、映像同士の同期の場合、1フレーム以下の誤差は誤差なしと考えても差し支えありませんが、音声の場合は1フレーム以下の誤差でもディレイがかかったような音になりズレていることが目立ちます。確実に同期をとりたいのであれば、ケーブルで同期信号を共有した収録の方が安心だと思います。

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FX30とDR-701Dを接続した状態

DR-701Dについて

 以下にDR-701Dの機能や気に入った点、不満な点などをおおまかに記載します。細かな仕様は製品ホームページマニュアルを確認していただいた方が正確だと思います。以下は実際に使用した感想としてご覧いただければと思います。

デザイン

 赤いハンドルがちょっと洒落ている他は、特に奇をてらったデザインではありません。業務用ポータブルミキサーを小型化したようなオーソドックスなデザインで、コンパクトで使いやすい形状です。
 各種操作ボタンやつまみ類も小さいながら気の利いた配置で、操作性は良いです。端子配置は1から3チャンネルに対して4チャンネルのみ反対側であったり、XLRプラグが上下逆に取り付けられていたりとやや意外な配置がなされていますが、ボディのサイズを考えるとパーツの向きなどを巧みに構成して無駄なく配置した結果だと思います。

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アルマイト処理で赤く染められたハンドルがアクセントになっている

 三脚とカメラの間に挟み込むよう設置するデザインなのですが、ボディ底面に滑り止めの処理がありません。三脚へ取り付ける場合は、三脚プレートに滑り止め処理されたものが多いため問題ありませんが、リグパーツに固定する場合などは滑り止めの処理がなされていないリグ用部品もあり、ネジで締め付けてもすぐに緩んでしまうことがあります。そのため、私は底面にゴムシートを両面テープで貼って使っています

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本体底面には滑り止め処理がないため、私はゴムシートを貼って使っている

 背面のカバーを開けると、SDカードスロットと単三電池4本を入れるバッテリー室になっています。このカバーは開くと紐状の軟質樹脂で垂れ下がるようになっているのですが、垂れ下がったカバーパーツが案外邪魔になり、ヒンジの付いたドアタイプの方が使いやすいのではと思います。
 また、この機材の発売日を考えると仕方ありませんが、電源やPCとの接続用のUSB端子がMicro USBなのが残念なところです。

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本体背面にバッテリー室とSDカードスロットのカバーがある
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バッテリー室とSDカードスロット

バッテリー

 先述のように単三電池を4本使うのですが、割とすぐに消耗してしまいます。各種バッテリーでの稼働時間がマニュアルに記載されているのですが、単三電池4本でざっくり2時間程度といった感じです。起動や終了にそこそこ時間がかかるので、こまめに電源を切るといった運用向きではないように思われます。この消費電力であれば、適当なカメラ用のバッテリーを使う仕様にしても良かったのではと思います
 もっともUSB給電が可能なので、内蔵の単三電池は予備電源くらいに考えてモバイルバッテリー運用にしても良いと思います。

メニュー表示

 本体に配置されたボタン類の数からは考えられないほど多彩な機能が盛り込まれており、メニューは全部で18ページにも及びます。これが縦に長くレイアウトされているのですが、ジョグダイヤルでページを送る設計なので比較的すぐに目的のページを開くことができます。ジョグダイヤルは押し込む動作でのクリック操作も可能で、ジョグダイヤルのみで恐らく全ての設定が可能です。さらにメニューボタンや停止・再生などの4つの操作ボタンを組み合わせると、より素早くメニュー設定ができます。

液晶モニタ

 白黒の小さな液晶モニタで、バックライトを備えています。各チャンネルのフィルタ適用状況などはメニューに入らないと確認できませんが、その分REC状況の表示やタイムコード表示、オーディオレベル表示に絞ったデザインで、REC動作の確認やオーディオレベルを把握しやすいモニタです。

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液晶モニタ

 レベルメーターは、-20dBのメモリを中心付近に配置したとても見やすいメーターです。レベルメーターの中央付近に-20dBを配置するか-12dBを配置するかで録音時のレベル設定のしやすさが変わります。-20dBが配置されていた方がヘッドマージンを大きく取れるので、レベル調整はしやすくなります。ただし、平均的な音量を-20dB付近で録音するということは、-12dB付近を中心に録音した場合に比べて編集時に音量を上げる必要があり、録音時に高いSN比での記録が求められます。この機械の録音回路は-20dBを基準にレベル設定して問題のないSN比が確保された、ノイズの少ない回路だと思います
 また、液晶モニタのすぐ脇に各トラックのレベル調整用ツマミやPEAKランプがあるので、レベルメーターと一緒に視野に入り音量レベル監視の視認性は良好です。

 欲を言えば、メーターのメモリに数カ所でいいのでdB値を記載して欲しいところです。
 図a01_fig_01はメーカーのマニュアルに掲載されたモニタの図を拝借して、信号音を入力したときの各dB値をレベルメーターの図に記載したものです。-30dB以下の指標も私が書き加えたものですが、この指標もメーター表示には是非欲しいところです。

図 a01_fig_01
メーカーマニュアルの図にdB値を追記

各種入出力と入力アンプ類

 メインとなる入力はXLR/フォーン(6.3mm)TRSのコンボプラグが4つ、各チャンネルは個別にファントム電源のon/off設定が可能です。多チャンネル収録可能なレコーダーでもファントム電源の切り替えが全チャンネル同時切り替えの機材もあり、各チャンネル個別にファントム電源をon・offできるのは地味に便利です。
 1・2チャンネルは、3.5mmステレオミニプラグからの入力に切り替え可能で、プラグインパワーの供給に対応しています。ミニプラグ接続のマイクでもコンデンサータイプのものが多いので、プラグインパワーは重宝します。
 3・4チャンネルはレコーダー本体に内蔵されたマイクからの入力に切り替えが可能で、本体のみでの録音も可能です。ピンマイクやガンマイクでの収録に加えて、予備的に環境音を収録するなどにも活用できます。私はこのマイクをあまり使用していないので詳細な音質については分かりませんが、簡単なテスト録音をしてみると他のポータブル・フィールドレコーダーと同等程度の音質で収音できるように感じます。
 その他、カメラの音声をモニタするための入力があります。この入力は録音回路を通らない、モニタ用の入力です。

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本体右側面には3つのXLR/6.3mmTRS端子、EXT入力として3.5mmTRS端子、ヘッドホン用出力として3.5mmTRS端子がある
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本体左側面には4つ目のXLR/6.3mmTRS端子、HDMI入出力端子、カメラ音声をモニタ入力するための3.5mmTRS端子、カメラのマイク入力へ出力するための3.5mmTRS端子、ライン出力用の3.5mmTRS端子、タイムコードの外部入力用のBNC端子、PC接続/電源供給用のMicro USB端子がある

 出力はメインになるラインアウト、カメラにミックスを送るためのマイクレベルのアウトプット、ヘッドフォン出力の3出力です。ヘッドフォン出力は本体の「MONITOR」ボタンとジョグダイヤルで各チャンネルやミックスアウトなどモニタするトラックを細かく切り替えることができます。
 4つの入力用に搭載されたマイクアンプなど音声の音質はとても良く、本機よりも高価な録音機材に引けを取らない音質での録音が可能です。この品質のアンプを4チャンネル搭載してこの値段なのはかなりコストパフォーマンスの良い機材なのではと思います。

フィルタ機能

 リミッター、フェーズ(位相反転)、ディレイ、ローカットとフィルタ機能も充実しています。フェーズやディレイといったフィルタは、このクラスのレコーダーにそこまで搭載する?とも思える機能ですが、本機はミックス機能も備えているため各マイクの距離の違いによるディレイ調整や、マイクの2番ホット、3番ホットといった切り替えのためのフェーズ調整が必要という判断で搭載されているのだと思います。
 また、各チャンネルごとにオートレベルコントロールを適用したり、1入力を2通りのレベル設定で2チャンネルに分けて録音する機能、4つのつまみを任意にグループ化するGANG(ギャング)機能などもあり、至れり尽くせりといった感じです。

各チャンネルの調整つまみ

 録音レベルを調整するフェーダーは回転式となっており、通常はロータリーフェーダーというパーツですが説明書では「つまみ」と呼んでいます。いわゆるロータリーフェーダーのように絞り切って無限大に音量を小さくする、つまり無音にするといった操作ではなく、絞り切っても音声は消えません。メニュー設定で絞り切った状態をミュートにすることもできますが、この場合はつまみを絞り込んでいくとある時点で音声がストンと急にミュートされ、次第に音量を絞り切って無音になるような動作にはなりません。
 信号音を本機に入力して試してみると、このつまみの音量調整範囲は概ね25dB程度です。つまり、つまみを最大にして0dBの入力がある時、つまみを絞り切っても-25dBまでしか調整できず、調整範囲がやや狭く感じます。機器の仕様を見ると、GAIN設定での入力レベルの変化がXLR入力の場合で12dBから20dBの増減なので、このつまみとGAIN調整を組み合わせれば音量調整範囲が足りないということはありません。しかし、音量差の大きな音源の収録時に途中でGAIN切り替えをすることができないような場面では、もう一息調整幅が欲しいと感じます。

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前面の操作パネル

同期

 本気の目玉機能で、カメラなどからのHDMI信号を同期信号に使います。ミラーレスカメラなどと組み合わせて同期録音をするのに素晴らしいアイデアです。FX30と本機とでテストをしてみて、同期自体には問題は見られませんでした。また、既に販売を終了したカメラではありますが、冒頭に記載したBMMCCと本機との組み合わせでも問題なく同期収録できました。ケーブルで結線しての同期には安心感があります。

タイムコードの遅延とフレームレート

 カメラ側が対応していればHDMI信号からタイムコード情報も取り出すことができ、簡易なタイムコードシンク収録も可能です。
 ただし、HDMIの仕様上の問題だと思いますが、タイムコード信号に遅延が生じるようです。また、AppleのFinal Cut Pro(以下FCP)にDR-710Dで記録したファイルを読み込むと、HDMI同期に使ったカメラのフレームレート設定に関わらず、DR-701Dで記録したタイムコードのフレームレートは常に60fpsとして認識されます。AdobeのPremiereなど他のアプリでは29.97fpsとして認識され、フレームレートの値がはっきりしません。
 FCPで読み込んだDR-701Dの音声クリップの設定項目を確認してみると「ビデオフレームレート」という項目が無く、記録されたファイルにタイムコードのフレームレートが明示されていないのかもしれません。DR-701Dのタイムコード仕様については「DR-701DとFX30のタイムコード同期」に詳しく記載しましたので、興味のある方はそちらをご覧ください。

タイムコードシフト機能

 HDMI信号から取り出したタイムコードが遅延する現象については、本機のファームウェアv1.10でタイムコードのオフセット機能が追加され、±10フレームの範囲でタイムコードのタイミングを補正することができます。あらかじめテストしてタイムコードが遅れるフレーム数を補正するよう設定しておけば、カメラで記録するタイムコードとタイミングを揃えることも可能です。ただし、カメラからのHDMI信号が常に同じ値で遅延するのか、FHDや4Kといった映像の情報量の違いによって変化するのかはテストしてみないと分かりません。

TC端子

 HDMI端子とは別にタイムコードの入力端子が装備されています。タイムコードの出力機能があるカメラと組み合わせれば、より正確なタイムコード同期が可能なようです。ただし、私はタイムコード出力のできるカメラを持っていないので、テストはできませんでした。

 タイムコードを出力できる機材はあったので、TC端子から24fpsのタイムコードを入力してテストしてみました。録音したファイルをFCPに読み込んでみると、記録されたタイムコードはやはり60fpsとして認識されました。同じファイルをPremiereに読み込んでみると、29.97fpsとして認識されるので、やはり記録されたオーディオファイルにタイムコードのフレームレートが明示されていないのだと思います。

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タイムコード入力端子

タイムコード同期について

 HDMIの遅延に起因すると思われるタイムコードの遅延や、記録できるタイムコードのフォーマットが60fpsのみであることから、タイムコード記録は補助的なものと考えた方が良いかもしれません。それでも映像との確実な同期がとれて、おおよそのタイムコード同期も可能であるというのは、編集時に映像と音声のタイミングを合わせるのにとても役立ちます。私が編集に使っているFCPでは、タイムコードを補助的な同期材料として設定し、音声波形を同期の基準にすれば問題なく同期処理を行うことができます。
 FX30と本機をHDMI接続で組み合わせたFCPでの同期については、もう少し試してから別途記載しようと思います。

まとめ

 いくつかの不満点も記載しましたが、基本的にはかなり気に入っている機材です。特筆すべきはHDMI信号という比較的多くの機材で利用できる信号を使った同期機能を備えたことです。また、音質の良さや全体の機能に対して安価であることも魅力的なポイントです。
 逆に気になる点はバッテリーに単三電池を採用していることと、その割に消費電力が大きいといった電源周りの不満と、音量つまみの調整幅の狭さです。電源についてはモバイルバッテリーやACアダプタを利用することである程度解決できますが、音量つまみの仕様は時々使いづらさを感じます。
 また、タイムコードの仕様が曖昧なことも若干気になります。ただ、本機の価格を考えるとここら辺を曖昧な仕様にしていることで価格を抑えているのではと思います。本来の目的である同期収録そのものが確実であれば、フォーマットが多岐に渡り複雑なタイムコードに対応するコストをかけず割り切った仕様にするのも価格を抑える上で有効なのかもしれません。

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