ソニー FX30
FX30はSONYの「FX」シリーズという業務用ビデオカメラブランドで、イメージセンサーのサイズがAPS-C規格のカメラです。私はBlackmagicdesignのblackmagic Pocket Cinema Camera 4K(BMPCC4K)をメインに使ってきたのですが、このカメラの4K撮影時の解像度がもう一つなこと、サイズがデカいこと、カメラ内に手ブレ補正機能がないことから、別の機材を試してみたいと考えていました。サイズがデカい、カメラ内に手ブレ補正機能がないという点と、レンズマウントがCanon EFマウントという点でBlackmagicdesignの6Kシリーズは魅力を感じませんでした。そんな時に、SONYのFX30のカメラ内手ブレ補正機能の評判をYouTubeのレビュー動画などで見て、その性能の高さやサイズ感などもあって購入しました。細かなスペックはメーカーのホームページをご覧いただいた方が早く正確でしょうから、私が1年弱使用した感想を中心にまとめたいと思います。
なお、XLRハンドル付きのモデルを購入したのですが、ガンマイクを取り付ける時以外はハンドルなしで使用しているので、今回は本体についてのみ記載します。
INDEX
デザイン
とても小さくまとまっています。メーカーのホームページによると、フルサイズ版のFX3が「129.7mm x 77.8mm x 84.5mm(突起部除く)」で、FX30と全く同じ大きさです。FX30はイメージセンサーが一回り小さいAPS-Cであることを考えると、もう少し小さくすることもできたのかもしれません。しかし、FX3と同じデザインにすることで、多少でもコストをセーブしたり、アクセサリを共用できる利点もあり、ミリ単位で小さくなるよりは恩恵があるように思います。
正面から見たサイズ、縦横の寸法はかなり小さいのですが、ボディの厚みは若干大きめな印象です。おそらく冷却ファンを内蔵した分、一般的なミラーレスカメラよりもボディの厚みが増しているのだと思います。真夏の炎天下での撮影や、長回しの際には冷却ファンが動いているようで、ボディの脇から熱風が出てくるのを感じることがあります。冷却ファンの音は静かで、音が気になったことはありません。
かなり小さなボディですがグリップ部分はそれなりにボリュームがあり、普通に持ちやすいです。手の大きい人だと、あるいは小指がグリップに掛からず、やや不安定になるかもしれませんが、私の手のサイズだとギリギリ小指もグリップに掛かります。カメラ本体を上から見て右後ろ部分の、人差し指と親指の股部分にあたる緩やかな突起(写真c01_photo_03右)がもう少し大きい方が安定するように感じますが、個人個人の手の大きさによって握り心地が左右される部分だと思うので、平均値を取るとこのデザインが正解なのかもしれません。
ボディの底面に加え、上面、左右側面にも1/4インチのネジ穴が設けられています。底面の1/4インチネジ穴は、三脚固定用にどのカメラにもありますが、側面や上面にネジ穴があるのはちょっと珍しいのではと思います。ケージの固定をより確実にしたり、細かなリグパーツを取り付けるのに役立ちます。ただ、カメラを背面から見て左側側面の、各種端子ポートの配置された面のネジ穴は、パーツを取り付けるとHDMI端子カバーと干渉しそうで、ちょっと設置位置が設計的に雑な気もします(c01_photo_04左から2つめの写真)。
上面には3個のネジ穴がありますが、そのうち2つはXLRハンドルの取り付けに使うので、余剰分は1つになります。
真四角のボディにグリップを貼り付けたようなデザインでちょっと愛想のない形ですが、小さな「シネマトグラフ」といった感じで私は気に入っています。
操作性/ボタン・ダイヤル
全体的なボタン配置は、スチルカメラのαシリーズで練り込まれているのか、とても使いやすいレイアウトだと思います。グリップした時に自然に指が届く範囲に必要なボタンが上手くレイアウトされていて、使いやすいです。背面にある円形の十字キーが回転式のダイヤルを兼ねていて、シャッターボタン下のダイヤルと背面右上のダイヤルと合わせて合計3つのダイヤルが装備されており、絞り、シャッタースピード、ISOといった露出調節のための操作項目を全てダイヤルに割り当てることができるのも便利です。
ちょっと謎なのが、動画用のRECボタンが別に配置されていることです。Nikonのカメラでも動画用の録画ボタンは別に配置されていますが、なぜそのような設計にするのでしょう?スチル撮影は人差し指で、動画は親指でRECボタンを操作することを意図しているのでしょうか?そういえばカムコーダー型のカメラ、肩にのせるような大型のカメラの多くは親指で録画スイッチを操作します。しかし、私の手の大きさではこのカメラのRECボタンまで親指が届きません。この位置まで親指が届けば、隣にあるボタンも併せて使えて便利かもしれませんが、そういった握り方をするとボディ背面のボタンを操作しづらくなってしまいます。また、スチル用のシャッターボタンがとても操作しやすい位置にあるにも関わらず、動画撮影時に利用しないのも勿体無いです。
ボディ上面のRECボタンとその隣のボタンはもう少し後方に、そして背面に向けて少し傾斜した形で設置されていると、親指の操作範囲に収まるように思うのですが。そうすると、人差し指と親指の操作範囲にボタン7から8つ、ダイヤル2つとかなりの機能を集約できます。いや、或いはこのRECボタンは人差し指の担当すべき位置としてレイアウトされているのか…。デザイン意図が不明な配置です。
といった理由で、私は動画用のRECボタンは使っていません。動画の撮影もシャッターボタンに割り当て、ボディ上面のRECボタンにはカスタム機能で「長押しAvオート/マニュアル」を割り当てて使っています。
このカメラはボタンのカスタマイズの自由度が高く、他にも多くのボタンの機能をカスタム登録することができます。ついでに私のボタンカスタムをご紹介すると、
- ボディ上面 1:押す間オートAv(絞りオート/マニュアルの切り替えがデフォルトですが、オートは使わないので)
- ボディ上面 3:押す間オートISO(ISOオート/マニュアルの切り替えがデフォルトですが、オートは使わないので)
- ボディ上面 RECボタン:長押しAvオート/マニュアル(オートは使わないと言いつつ予備的に)
- ボディ背面 4(ゴミ箱ボタン):長押しISOオート/マニュアル(オートは使わないと言いつつ予備的に)
- ボディ背面コントロールホイール中央のボタン:再押しAF/MF切替(AF/MF切替スイッチの付いていないレンズが多いので)
- ボディ背面コントロールホイール下:フォーカスマップ 表示切替(フォーカス補助機能のピーキング表示切替の近くに配置しておくと便利そうなので)
- ボディ前面 6:モニター明るさ(屋外での利用でモニタ明るさ切り替えは頻繁に使うので)
に変更しています。(変更箇所は上記だけだと思うのですが、デフォルトの値を忘れたのでもしかしたら漏れがあるかもしれません。)
操作性/モニタ
モニタの上に横長のタリーランプがあり、見やすくて便利です。モニタ表示の「記録中の強調表示」機能と併せて使うと、格段に録画ミスを減らせるのではと思います。
モニタの情報配置は見やすいと思います。これだけの情報を詰め込むと仕方ないかもしれませんが、欲を言うと音声レベルメーターをもう少し大きくして欲しいところです。モニタのサイズ的に表示サイズを大きくするのが難しければ、-12dB以上の色を変えるなどの工夫があるとレベルの把握がしやすくなると思います。それ以外は、小さいモニタなりに上手くまとまっていると思います。
モニタはバリアングルタイプで、自由な角度に向きを変えることができます。モニタを外側に開いた時に、180度開ききらないのが少し気になります。ローアングルで上からモニタを見るときなどに水平が取りづらく感じます。モニタの開き具合は、もしかしたら個体差があって、私のカメラがハズレだったのかもしれませんが…。
手ブレ補正
それほど多くのカメラを使ったことはないのですが、FX30のボディ内手ブレ補正は評判どうり優秀な部類だと思います。YouTubeのレビューなどを見ると、或いはFX3よりも良く効くのではといった意見もありますが、FX3のフルサイズセンサーに比べてセンサーサイズが小さいことがボディ内手ブレ補正の性能の高さに一役かっているのかもしれません。
また、様々なYouTubeのレビューを見ると、SONYの手ブレ補正は広角レンズ使用時に起こる、いわゆる「コンニャク現象」と言われる歪みの発生が少ないようで、FX30でもほとんど気になりません。レンズの焦点距離を気にせずボディ内手ぶれ補正を活用できるので、手持ち撮影時にはとても心強いです。
撮影画像の色彩について
miniDVの時代以前はSONY製のカメラを使っていたのですが、AVCHDカメラの頃からミラーレスカメラでの撮影に興味が出てきて、その後はしばらくBlackmagicdesignのカメラを使ってきました。久しぶりにSONYのカメラを使ってみると、あたりまえですがSONYっぽい色彩だなと思います。XDCAMなどのカメラと比べると色味が異なるかもしれませんが、大雑把にはSONY色だと思います。
ピクチャープロファイル(PP)というカラー設定で様々な色味に調整した収録が可能です。PPなしの状態だとかなり色が強い(クロマ・サチュレーションが高い)ので、私はPP6を適用して撮影することが多いです。PP6を適用してみて便利だと感じたのは、感度設定をISO64まで落とせることです。FX30のカタログスペックでは最低感度はISO100なので、カラー設定で擬似的に感度が低くなるような処理がなされているのだと思います。
ISO64まで落とせれば、快晴の屋外でもNDフィルタなしで撮影できます。NDフィルタは着脱の面倒さやゴミの付着といったトラブルの元になるため、意図的に絞りを開くなど、映像表現上必要な場合以外は使いたくないので低感度設定にできるのは助かります。このブログに掲載しているレンズの試し撮りの映像も全てPP6を適用した映像です。
このカメラは、log撮影も可能なのですが、まだ試したことがありません。log撮影については、試してみた際に別途記載します。(テスト撮影的には試したのですが、特に通常撮影に比べて優れているように感じなかったので、本格的に試すかどうか…。)
解像度について
解像感などについて、4Kでの収録は良好だと思います。ほぼ不満はありません。ただ、HD収録時の画質に違和感があります。XAVC S HD(iフレームなしのLong GOP圧縮形式のFHDモード)やXAVC S-I HD(iフレームありのIntra圧縮形式のFHDモード)でFHD収録をした際の画質は、1280HDかSD映像をアップスケールしてシャープネスをかけたような解像度感に欠ける画質です。c01_photo_10はFHD1920 × 1080のタイムラインに、XAVC S-I 4K収録のクリップとXAVC S-I HD収録のクリップを並べたビューア画面を、400%に拡大表示したスクリーンショットです。画面左のXAVC S-I 4K映像は、4K映像をFHDに縮小しているので1920の解像度が十分に出ている映像になっています。右の映像もFHD設定で収録した映像なので、解像感に差はないはずなのですが、XAVC S-I HDの方は明らかに解像度が劣っているのが分かります。また、XAVC S-I HDは架線を支えるトラス構造部分や奥の黒っぽいビルの輪郭などにシャープネス処理をかけたようなエッジがあります。
4K収録時に同時収録できるHD解像度のプロキシファイルは綺麗なFHD画質なので、カメラ自体には正常なFHD画質での収録能力は備わっているようです。しかし、HD収録設定で記録されるファイルは、このように残念な画質です。どういった理由でこういった仕様なのか理解に苦しみます。FHD以上の解像度は必要ない撮影でも4Kで撮らざるを得ず、PCの負担やストレージの節約という意味では少々残念です。しかし、iフレームなしのLong GOP方式で撮影する分にはデータ量が小さいことと、FHDタイムラインに4K素材を配置すると、編集時に画像を200%近くまで拡大しても十分な解像度を保てるといった利点もあり、今のところ全ての収録を4Kで撮影しています。
内蔵マイク
内蔵マイクの音質はとても良いと思います。正直なところ、他のいくつかのカメラを使ってきた経験から内蔵マイクには期待していなかったのですが、良い意味でその予想は裏切られました。周波数特性や指向性などの細かいスペックはホームページやマニュアルに見当たらないのですが、スナップ的に撮ったものをFinal Cut ProのEQに搭載されたAnalyzer機能で見る限り、80Hzから20KHz付近まで収音されているようです。実際にお祭りや、屋外イベントを撮ってみたものも、カメラの内蔵マイクとは思えないクォリティで録音されています。
収音される音質は好感の持てる内蔵マイクなのですが、そのままだと僅かなそよ風でも風雑音(ウィンドノイズ)が出ます。ネットでSmallRig製のZ30用のウィンドジャマー(俗に「モフモフ」と言われるパーツ)がFX30にも使えると知り購入しました。マイクの設置位置がZ30よりも外に広いのですが、問題なく風雑音を防げています。是非標準の付属品として付けて欲しいくらいです。SmallRigの品番は3859で、この投稿を書くにあたって改めてSmallRigの商品ページを見たら、「Sony FX30/FX3に対応」と追記されていました。
「SmallRig Nikon Z 30 用 ウィンドマフ 3859」のAmazonサイトへのリンクはこちらです。
音量レベル表示
内蔵マイクには優秀なリミッタが常時適用されているようなのですが、リミッタが効いたことを示す何らかのサインが無いと、リミッタ効果を避けて最大音量部分を潰さずに収音したい場合に音量調節をしづらいです。リミッタが作動したときには音声レベルメータのピーク表示部分が赤以外の色で点滅するなどの工夫があると、録音レベルの設定に役立つと思います。前述の音声レベルメーターのサイズについてもそうなのですが、オプションのXLRハンドルなど音声機能が充実しているだけに、音声レベルメーターの表示が今ひとつなのは残念なところです。
3.5mmプラグからの入力
普段、音声の外部入力を行う際にはXLRハンドルを使うので、カメラ本体の3.5mmプラグからのマイク入力は購入直後に軽くテストしただけですが、SNなど良好でした。カメラ本体内蔵のマイクの音声が比較的良質なので、あえて3.5mm接続のマイクを使う必要を感じませんが、ワイヤレスマイクの接続などで重宝します。
音声周りのクォリティが高いのは、流石オーディオ機器も作ってるSONYという印象です。
バッテリー
カメラ本体のグリップ部分にNP-FZ100という小型バッテリーを収納します。仕様だと2時間弱から3時間弱の撮影が可能と記載されていますが、3時間弱は盛り過ぎだろうと感じます。
ロケなどで、XLRハンドルを装着してガンマイクに給電しての撮影では、1時間から1時間半程度でバッテリーを交換していると思います。ただ、0%までは撮影せず、残容量20から30%で交換してしまうので、ギリギリまで使えば2時間程度は撮影できるのかもしれません。0%近くまで使い切るとバッテリーセルを痛めそうな気がして、つい残量を2、3割残してしまいます。
XLRハンドルなしで、電源の入り切りをしながらスナップ撮影をするような場合は、フル充電のバッテリーが1本あれば1日撮影できる印象です。
バッテリー容量と共に、バッテリー寿命も気になるところです。約9ヶ月使用した頃に、充電しても97%までしか充電されないようになり、1年もたずにバッテリーの寿命かなと思ったのですが、残容量が30%くらいまで放電してから充電したら100%まで満充電されるようになりました。それでも、時々100%まで充電されないことがあります。ロケのない日は少しスナップを撮って、夜間に充電をするのですが、20から30%しか使っていない状態で充電を繰り返したせいで、セルの劣化が早まったのかもしれません。
外部電源としてUSB-C端子から給電・充電できます。三脚に載せて1から2時間の連続撮影といった場合は、携帯用のモバイルバッテリーを使用することができます。
価格
比較的安価なカメラを販売してきたBlackmagicdesignも、モデルチェンジで次第に高価になってきました。ポケットシネマカメラシリーズ(最新機種は「ポケット」の文言が取れました)は、カメラ内手ブレ補正やその他のレンズ補正機能を同社の動画編集ソフトDaVinci Resolveに任せる形で機能を削り価格を抑えてきたように思いますが、円安の影響もあるのかラージセンサーを搭載した機種は30から40万円ほどです。SONYのFXシリーズも、他機種は56万円や88万円といった価格設定の中で、FX30は30万円程度とスペックに対して安価な値段設定だと思います。
全体的に見て
コストパフォーマンスの高さが魅力のカメラです。コストの部分は前項で記載しましたが、それに対してパフォーマンスの部分では、十分な画質と音質での収録が可能で高いパフォーマンスが期待できるカメラだと思います。APS-Cとセンサーサイズが小さめなので、レンズもフルサイズに比べて安価です。また、ズームレンズの倍率もセンサーサイズの小さなAPS-C用はフルサイズ用に比べて高倍率なものが期待できます。そして、収音周りの機能・品質は光学機器を中心に扱うカメラ専門メーカーの機材に比べて一歩も二歩も抜きんでているように感じます。音声のクォリティは画像と共に映像の品質を左右する重要な要素なので、録画・録音品質のバランスの良さもこのカメラの大きな魅力の一つだと思います。
※FX30で記録したファイルをAppleのFinal Cut Proに読み込む場合、タイムコードの扱いにクセがあるようです。詳しくはこちらの記載をご覧ください。
FX3.FX30みたいにFX6にFX60が欲しいと思う
そういった商品もユニークですよね!