ソニー製APS-C用Eマウント
高倍率ズーム
E PZ 18-200mm F3.5-6.3 OSS

 FX30での撮影用に購入した高倍率ズームです。APS-C用のレンズで、18mmから200mmと約11倍のズーム比があり、SONYのEマウントレンズのラインナップでは、最も高倍率なズームレンズの一つです。同じ焦点距離とF値のレンズに「E 18-200mm F3.5-6.3 OSS LE」がありますが、メーカーホームページのレンズ構成図を見るとレンズ構成が異なり、E PZ 18-200mm F3.5-6.3 OSSは電動ズームのために、ズームレンズ群の設計を変えているようです。

写真 L01_photo_01 レンズ本体を側面から見たところ

F値

 F値がF3.5からF6.3とズーム時の焦点距離によって変化するタイプですが、F6.3以上で使えばズームの途中で明るさが変わることなく使えます。
 F値が変化するレンズは広角から望遠にズームするとき、絞り羽根を動かさないと映像が次第に暗くなります。メーカーによっては、ズームによってF値の変わるレンズを使った場合に、次第に暗くなるように撮れる仕様のカメラもあります。また、明るさが変わらないように、絞り羽根を制御して調整するのですが、1/3絞りづつなど段階的に明るさが変わる仕様のカメラもあります。
 その点、このレンズは明るさが変化しないため、F値の変動を気にせず動画撮影に使うことができます。このレンズが、というよりはSONY製のカメラボディがそのようにレンズを制御しているということです。なお、FX30との組み合わせで試した結果です。全てのボディとの組み合わせで、ズーム操作時に明るさが変化しないかは分かりません。
 その他、重量などの細かなスペックは、SONYの商品ページをご覧下さい。

外観

 レンズ本体の下にサーボモーターが取り付けられています。下に大きく飛び出しているので、三脚に取り付ける際に、ボディとの組み合わせによっては邪魔になります。FX30との組み合わせでは、写真 L01_photo_02のようにカメラ本体よりも下にレンズのサーボモーター部分が飛び出します。前後に長い三脚プレートを使う場合は、適当なライザーを挟んで取り付ける必要があります。

写真 L01_photo_02 FX30に取り付けたところ

 私は、SmallRigのベースプレート1674を使って三脚に取り付けています。写真 L01_photo_03では、SmallRigのアルカスイスアダプタDBC2506Bも取り付けています。カメラ本体にPeak Designのプレートを付けっぱなしにししているためです。余談ですがこのSmallRigのアルカスイスアダプタ、プレートをロックするネジが横にくる位置で使用すると、カメラが僅かに傾くような気がします。ロックするネジがカメラの前後にくる位置で使用した方がカメラが傾かないように思います。
SmallRigのベースプレート1674のAmazonサイトへのリンクはこちらです。
SmallRigのアルカスイスアダプタDBC2506BのAmazonサイトへのリンクはこちらです。
写真 L01_photo_03では、6インチ(約12cm)の15mm径アルミロッドを取り付けていますが、SmallRigの6インチロッドは現在生産が無いようです。
4インチ(約10cm)のアルミロッドのAmazonサイトへのリンクはこちら8インチ(約20cm)のアルミロッドAmazonサイトへのリンクはこちらです。

写真 L01_photo_03 SmallRigのベースプレートを取り付けた状態

 角形フードが付属し、レンズ前部のバイヨネット機構で取り付けができます。カムコーダータイプに付いているような、レンズシャッター付きのフードだと便利なのですが、付属するのはシンプルなプラスチックのフードです。
 レンズのフィルター径は67mmです。

写真 L01_photo_04 レンズ前後
写真 L02_photo_05 角形フードを取り付けた状態

 レンズの後ろから見て、左側にズームの操作部分があります。望遠・広角の操作スイッチと、その前側にズームスピードを3段階で調整できる切り替えスイッチがあります。
 下側のサーボモーター部分側面に、電動ズームと手動ズームの切り替えスイッチがあります。手動に切り替えると、レンズの前側にあるズームリングを使って、手動でのズーム操作が可能です。他のPZシリーズのように、電気的なスイッチとしてのズームリングではなく、ズームのカム機構に噛み合ったリングなので、素早く画角を決めることができます。カム機構の関係だと思いますが、望遠側でやや重い操作感です。また、スチル用のレンズにありがちなのですが、手動操作でのズーム時に各摺動部が擦れる音が少々気になります。

写真 L01_photo_06 レンズ側面のズーム操作部のアップ

 レンズの後ろ側にあるのがフォーカスリングです。こちらは、回転方向を電気的に伝達するリングで、回転量とフォーカスの移動量に関係がないタイプの操作リングです。できれば、距離メモリの付いたフォーカスリングの方が使い勝手は良いのですが、SONY製品のレンズでそういったものはなく、難しいのかもしれません。
 ズーム操作をするとレンズが伸びるタイプで、望遠時には全長が倍ほどに伸びます。望遠時には重心が数センチ前にずれるので、三脚のカウンターバランスを細かく調整する方には気になるかもしれません。カウンターバランスを調整するときに、レンズを広角側、望遠側と切り替えながら、間をとるようにバランスを取ると良いと思います。ただ、最望遠側で200mmと超望遠に近いため、それなりに三脚のトルクを高めに設定して使うことが多くなります。重心の移動は、三脚のトルクの重さに吸収されてしまい、さほど気になりません。

写真 L01_photo_07 レンズ伸長時

サーボズーム(電動ズーム)

 ゆっくりとしたズーム・イン、ズーム・アウトは、様々な場面で重宝します。映画用の高価なレンズであれば、手動操作で滑らかなズームが可能です。しかし、スチル用のレンズや安価なズームレンズで滑らかなズーム操作は期待できません。その点、このレンズは電動でのズーム操作が可能で、スピードの切り替え機能も付いています。
 ズーム速度は、H(High:はやい)M(Middle:中くらい)L(Low:ゆっくり)と3段階の切り替えが可能です。「はやい」から「ゆっくり」といっても、動作させた実感としては、ゆっくり、かなりゆっくり、めっちゃゆっくり、の3段階といった印象です。上下にスライドするズームレバーでズーム操作をします。H、M、Lの各速度で、浅くスライドするとゆっくり、深くスライドするとはやくといった具合に2段階のスピードで操作ができ、合計で6段階のスピードが選択できます。
 以下の動画 L01_movie_01は、H、M、Lの各速度でズームレバーのスライドを加減して、「ゆっくり」から「はやく」に切り替わるように操作したものです。18mmから200mmのズーム範囲で、何度かズーム操作をしています。上手く操作できると、ズームが急にスタートするのではなく、スタート、ストップ時に1クッションある動きになりますが、なかなか難しいです。確実に操作するには、それなりに練習が必要です。

動画 L01_movie_01

 以下の動画 L01_movie_02は、H、M、Lの各速度で「ゆっくり」と「はやく」だけのズーム速度になるようレバーを操作したものです。6段階の速度設定があるのが分かると思います。

動画 L01_movie_02

 ズーム操作全般としては、もう少し早めの設定が欲しいところです。しかし、電動操作に頼りたいのは、こういったゆっくりとしたスピード域です。もっとはやいズーム操作をしたければ、電動から手動に切り替えて、ズームリングを使って操作することもできます。
 欲を言えば、この3段階をレバーひとつで無段階に変化させることができると最高なのですが、ズームスイッチがかなりしっかりした作りでないと、ズームスピードを保ことが難しくなります。このサイズに収めるならば、ズーム速度を切り替え式にするのは賢い判断かもしれません。
 サーボモーターの駆動音は、それなりの音量です。音声のゲインを上げる撮影では、気になるかもしれません。割とズーム操作音が大きい「E PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSS」よりもわずかに大きい程度の音量です。まだこのレンズの使用経験が浅いので、確定的なことは書けませんが、XLRハンドルに取り付けたガンマイクでの音声収録ならば、マイクとサーボモーターの距離が遠くなるので、それほど気にならないのではと思います。
 モーターの作動音と共に気になるのが、各種切り替えスイッチの操作音です。ビデオ撮影に特化したレンズだと思うので、もう少し音の出ない工夫が欲しいところです。購入時に家電量販店で試した店頭展示品は、スイッチが摩滅してほとんど音がしなかったので、使い込めば気にならなくなるかもしれません。

描写

 カメラ側のレンズ補正機能は、「オート」にした状態で撮影しています。レンズテストという意味では、全ての補正設定をoffにするべきかもしれませんが、実際に撮影するときと同じ状態で試した方が写り具合を判断できると思い、補正機能を使ってテストしています。カメラごとにレンズ補正機能に差があるのかはよく知りません。場合によっては、FX30と組み合わせるとこの程度は写る、と考えて頂いた方が良いかもしれません。
 テストと多少のスナップをしただけなので、ざっくりとした印象になりますが、開放から絞り込んでの撮影まで比較的シャープな写りだと思います。絞りを開放にしたときや、望遠側で画質が落ちるということもなく、全体的によく写ります。正直なところ、APS-C用と比較的大きなセンサーに対応した高倍率ズームということで、もう少し部分的に難ありかと覚悟していたのですが、特に難点もなく、ズーム比を考えるとお値段以上の写りではと思います。
 動画 L01_movie_03は、全て手持ち撮影で、FX30のアクティブ手ブレ補正をONにして撮影したものです。手ブレ補正の効き具合も合わせて参考にしていただければと思います。広角側で開放がF3.5、望遠側で開放がF6.3とF値の大きなレンズなので、ボケを生かした映像は難しいのですが、200mmの望遠側を活用すると、条件によっては背景をボカした映像を撮ることもできます。

動画 L01_movie_02

 説明書では、周辺光量不足があることをわざわざ断っていますが、カメラの補正機能が上手く効いて気になりません。試しにカメラの「周辺光量補正」をoffにしてみると、望遠側で画面周辺の光量不足があります。カメラ側の補正機能で気にならない範囲に押さえ込まれているので、問題ないと思います。

手ブレ補正

 SONYのレンズは、型番の末尾に「OSS」と付いたものに手ブレ補正機能が搭載されており、このレンズにも手ブレ補正機能が搭載されています。普通によく効きます。
 動画 L01_movie_04はFX30に取り付けて、18mm、100mm、200mmの各焦点距離で、手ブレ補正なし、スタンダート手ブレ補正、アクティブ手ブレ補正を切り替えて手持ち撮影をした映像です。三脚が要らないとは言いませんが、かなりよくブレを吸収します。

動画 L01_movie_04

 動画 L01_movie_05は、アクティブ手ブレ補正をONにして、18mm広角で歩き撮りしたものです。FX30のアクティブ手ブレ補正はかなり良く効くのですが、時々補正範囲を超えて画像がカクッとなる部分があり、歩き撮りはちょっと厳しいかなと思います。

動画 L01_movie_05

 私はFX30と組み合わせての使用を想定していますが、レンズマウントがそれほど堅牢な構造ではないことや、カメラ底面の面積が小さく、カメラの操作時に細かな揺れを拾ってしまうので、三脚使用時でも手ブレ補正をonにしておいた方が画面が安定します。
 手ブレ補正の機能には関係ないのですが、レンズが重いので手持ち撮影にはやや不向きに感じます。しかし、レンズのサーボモーター部分に手を添えて使う形になるので、FX30のような小さいカメラに取り付けた場合は、丁度重心のあたりを支える形になり安定します。重心を支えることと、レンズが重いことでプラスマイナスな点が相殺されている感じです。それでも、望遠時にはレンズが随分と前に繰り出すので、やや不安定になる印象です。

ズーム時のピント問題

 動画 L01_movie_01や、動画 L01_movie_02をご覧になってお気づきかもしれませんが、ズームの折り返しでピントが外れます。画面全体が大きくボケるほどではないので、購入時に店頭で試したときには気づきませんでした。しかし、撮影した動画ファイルをPC画面で再生すると、はっきりとボケる瞬間があるのが分かります。また、超解像ズームを併用しているときは、超解像ズームから光学ズームに切り替わるところでボケます。これは、光学ズーム時に合焦した状態から超解像ズームに移行し、超解像ズームで折り返したとき、光学ズームの機構が折り返し動作になる時点でボケるといった現象です。光学ズームでの折り返しでピントが外れるのと同じ原因で起こる現象といえます。
 動画 L01_movie_06は、光学ズームのみと、超解像ズームありの2通りで撮影したものです。光学ズームのみでは、ズームの折り返し時にピントがボケます。超解像ズームありでは、ズームを折り返した後、超解像ズームから光学ズームに切り替わる部分でピントがボケます。

動画 L01_movie_06

 サーボズームの付いた11倍ズームとしては安価な製品とはいえ、撮影途中でピントが外れるのは好ましくありません。また、このレンズよりも安価なSONYの小型ハンディカムでも、ズーム時にこういった症状が起きたことはありません。
 初期不良かもしれないと思い、銀座のSONYショップに相談してみました。お店の展示品を試させてもらったところ、展示品の方が症状が軽微に見えました。店員の方からは、購入店で修理依頼をしてみては、とアドバイスを頂きました。早速購入した家電量販店に相談してみると、SONY商品を担当している方が対応してくれて、店頭の展示品と更に新品のレンズを試させてもらえました。
 結論からいうと、試した4本のレンズは、どれも同様の症状を示しているといえます。SONYショップの店頭展示品で症状が軽微に見えたのは、テストした撮影距離が近かったためと思われます。撮影距離が近いと、合焦動作のためのレンズの移動距離は大きくなります。レンズ位置の誤差が原因と思われるので、近距離の撮影時の方が、レンズ位置の誤差は相対的に少なくなり、ボケの程度が少なく見えるというわけです。
 動画 L01_movie_07は、撮影距離5m20cmでズームの折り返しをした映像と、撮影距離3mでズームの折り返しをしたものです。3mで撮影した映像の方が、ボケるのが僅かに軽微に見えます。

動画 L01_movie_07

ピント対策

 11倍のサーボズーム付きレンズとしては安価であるとはいえ、「残念!」で済ますには痛い金額です。なんとか、ピントが外れる現象を目立たなくする方法はないか考えてみました。ちょっと強引な方法ですが、絞り込んで被写界深度を深くすれば、ピントが外れてボケる程度が軽減します。動画 L01_movie_08は、F6.3で撮影したものと、約2段絞ったF11で撮影したものです。F11の方が幾分ボケが軽減しています。

動画 L01_movie_08

 最初にご紹介した動画 L01_movie_01や動画 L01_movie_02は、F18まで絞っているので、ズームの折り返し時のボケは更に軽微です。しかし、常にそこまで絞り込んで使うというのは、現実的ではありません。また、この缶ビールの映像も、最初はビールではなくチャートを撮ってみました。しかし、ズーム動作中に細かくピントが暴れているのが目立つため、ボツにしました。シビアに見たときのピントの不安定さは、オートフォーカスでの使用が前提になるレンズの限界かもしれません。

全体的にみて

 ズーム操作時のピントの問題だけは、このレンズよりも遥かに安価な家庭用ハンディカムでも見られない現象なので、非常に残念です。ファームウェアの修正でなんとかならないものでしょうか…。
 ピントの問題以外は、FX30を小型のカムコーダー風に使うのにもってこいなレンズです。少々重くはなりますが、常用レンズに使っても便利だと思います。手動操作での素早いフレーミングと、電動での滑らかなズームを切り替えて使える点は、業務用のレンズに似た使い方ができて魅力的です。また、カメラ本体の超解像ズーム機能を併用すると、300mm相当(35mm判で450mm相当)まで寄れるのも魅力です。
 近年、SONY製品では10倍程度のズームレンズを搭載し、簡単な取材をこなせるカムコーダータイプの製品が少なくなってきました。このレンズとミラーレスカメラの組み合わせは、カムコーダー型カメラの穴埋めになるのではと思います。描写や手ブレ補正機能がなかなか優れているだけに、ズーム時のピントの問題はとても勿体無く感じます。

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