FCPの再生用メディアファイル1
参照メディアによる完成映像の違い

 私は、FCP(Final Cut Pro ファイナルカットプロ)で編集するほとんどの場合に、ライブラリ内にメディアを保存し、最適化されたメディアを作成してきました。最適化されたメディアを作成する利点について、AppleのFCPのオンラインユーザーガイドには、「編集時のパフォーマンスが向上し、レンダリング時間が短縮され、合成のカラー品質が向上します。」と記載されています。この説明を読むかぎり、最適化されたメディアを再生用メディアに選択しない手はないな、と思います。しかし、FCPの生成するメディアについてブログに記載するために、プロキシメディアを作成してみると、案外プロキシメディアでも快適なのでは?と思いました。
 プロキシメディアの魅力は、容量が少なくすむことです。プロキシメディアで作業のための十分な画質が得られるのならば、ストレージ容量を節約できて言うことありません。Appleのホームページには各ProRes形式のビットレートの記載があり、計算すれば概ねのことはわかります。
 しかし、ProRes形式は可変ビットレート方式なので、実際の映像で試してみないと、容量的な恩恵がどの程度あるのか実感が湧きません。また、再生用メディアをプロキシメディアにすることで、書き出しにかかる時間に影響があるかも重要な要素です。そこで、実際に編集をしたライブラリデータを使って、プロキシメディアを生成した場合のストレージの使用量や、書き出しにどのくらい時間がかかるかについて試してみました。

テスト用のライブラリを作成

 編集済みとはいえ、マスターデータでテストするのは心配なので、ライブラリのコピーを作成します。
ライブラリを選択→右クリック→ライブラリにコピー→新規ライブラリ
でライブラリをコピーします。

 まず、オリジナルメディアのみのライブラリを作成します。上記の操作で表示される画面51_fig_01で、「オリジナルのメディアのみ」を選択して、「OK」をクリックすると複製が始まります。(この複製時間が、一瞬で終わるのが不思議です。同一のオリジナルメディアを使用する場合に、複製を高速化する何らかの特殊な処理をしているのでしょうか?)

FCP画面 51_fig_01

 プロキシメディアは、ライブラリ内の一つのメディアに対して一種類しか作成できないのと、再生用メディアのタイプ別ごとにライブラリ容量の違いを確認したいので、ライブラリを再生用メディアの種類別に作成します。オリジナルメディアのみのライブラリを元に

  • プロキシメディア50%サイズ
  • プロキシメディア100%サイズ
  • 最適化されたメディア

用のライブラリを複製しました。プロキシメディアのサイズには、12.5%と25%の設定もあるのですが、50%以下は明らかに解像度の点で厳しそうなので、今回のテスト対象からは外しました。また、H.264も今回は外しました。(プロキシメディアの種類やその画質について詳しくは、こちらをご覧ください。
 なお、ライブラリのコピー手順については、「FCPの編集データをバックアップ その1」の「初回のバックアップ」もご覧ください。

各メディアをトランスコードする

 作成した各ライブラリごとに、必要なメディアをトランスコード(変換)します。
ビデオクリップを格納したイベントを選択→右クリック→メディアをトランスコード
と操作して、ライブラリごとに必要なメディアをトランスコードしました。

FCP画面 51_fig_02 サイズ100%のプロキシを作成する設定

 メディアのトランスコード手順について詳しくは、「FCPのメディアのトランスコード」をご覧ください。

各ライブラリの容量

 今回作成したライブラリに読み込んだ映像メディアは、FX30で撮影したiフレームなしの4K動画ファイルで、フレームレートは23.98p、動画形式はmp4です。合計収録時間は44分36秒、容量は20.21GBでした。ライブラリは全部で5種類作成し、最適化されたメディア、プロキシメディアの50%サイズ、100%サイズに加え、オリジナルメディアのみと、メディアを外部参照するタイプも作成してみました。
 あたりまえのことですが、「オリジナルメディアを外部参照」の10.2MB(0.0102GB)に動画素材の20.21GBを加えると、「オリジナルメディアのみ」の20.22GBになります。メディアデータの容量と、ライブラリそのものの容量との加減算が成り立つのならば、各種ライブラリ容量からレンダリングファイルの容量などを求めることもできます。

ライブラリの種別ライブラリ容量生成メディアの容量
オリジナルメディアを外部参照10.2MB
オリジナルメディアのみ20.22GB
オリジナルメディアと最適化されたメディア172.38GB152.16GB
オリジナルメディアとプロキシメディア50%32.77GB12.55GB
オリジナルメディアとプロキシメディア100%67.19GB46.97GB
52_table_01 作成したライブラリ

 プロキシメディアのサイズ違いでの容量差は、「FCPのメディアのトランスコード」の「おまけ トランスコードしたメディアの容量」に記載したとおり、50%サイズが100%サイズに対して、およそ25%の容量になっています。画質の違いが気になるところですが、魅力的な容量減です。また、100%サイズの容量も、最適化されたメディアに対して約30%と魅力的な軽量化です。

各ライブラリからの映像書き出し

 再生用のメディアとして、最適化されたメディアを作成した場合と、プロキシメディアを作成した場合で、完成映像の書き出し速度に差はあるのでしょうか?FCPのマニュアルにはっきりとした記載を見たことはない(すみません、電子書籍で1700ページ弱と、膨大な分量なので全部を読んだことはありません。)のですが、冒頭に引用した記載から推測すると、最適化されたメディアの作成の有無で差がありそうです。ただし、マニュアルに記載されるような、いわゆる「カタログスペック」的なものに対して、実際の編集作業では、色補正などのエフェクト処理やテロップが追加されるため、条件が異なります。今回、実際に編集をしたライブラリで試してみるのは、より実際の運用に近い条件でテストをしてみようという試みです。
 今回書き出すタイムラインは、

  • 完成時間17分の4K映像
  • 3秒のモーション付きテロップ26個
  • 12秒のテロップ(in、outにモーションエフェクトあり)7個
  • 6秒のタイトルテロップ1個
  • 「カラーボード」で、全体に軽微な色補正
  • ゲインエフェクトで音量調整

というものです。

 ProRes 422 HQへの書き出しを行なった時間と、各書き出しファイルの容量を表にしたのが以下です。タイムラインのレンダリングを行っていない状態での書き出しです。

ライブラリ種別
(タイムラインのレンダリングなし)
ライブラリ容量書き出したファイル容量
ProRes 422 HQ形式
書き出し時間
オリジナルメディアのみ20.22GB88.73GB17分
オリジナルメディアと最適化されたメディア172.38GB90.32GB30分
オリジナルメディアとプロキシメディア50%32.77GB88.73GB16分
オリジナルメディアとプロキシメディア100%67.19GB88.73GB23分
52_table_02 レンダリングなし/ProRes 422 HQ書き出し

 ここで気になったのが、書き出した映像ファイルの容量が異なることです。最適化されたメディアを作成したライブラリから書き出したファイルの方が、2%弱容量が多いです。容量が違うということは、画質が違うということでしょうか?また、差が出る要因はなんでしょうか?書き出し速度について考える前に、この容量差について検討します。

完成映像の容量差

 テロップやエフェクトの有無が、書き出し映像の容量に影響があるか試してみます。15分から30分かかる書き出しを何通りもテストするのは面倒なので、動きや画面の細かさなど、テストに向いた要素を含んだカットを選びました。2分51秒のカットです。

エフェクトなしエフェクトなしProRes 422 HQ書き出し
オリジナルメディアのみ14.35GB
オリジナルメディアと最適化されたメディア9.58GB
オリジナルメディアとプロキシメディア50%14.35GB
オリジナルメディアとプロキシメディア100%14.35GB
52_table_03 エフェクトなし/ProRes 422 HQ書き出し
エフェクトあり(カラーボード)ProRes 422 HQ書き出し
オリジナルメディアのみ14.70GB
オリジナルメディアと最適化されたメディア14.55GB
オリジナルメディアとプロキシメディア50%14.70GB
オリジナルメディアとプロキシメディア100%14.70GB
52_table_04 エフェクトあり(カラーボード)/ProRes 422 HQ書き出し
エフェクトあり(カラーボード+音声ゲイン)ProRes 422 HQ書き出し
オリジナルメディアのみ14.70GB
オリジナルメディアと最適化されたメディア14.55GB
オリジナルメディアとプロキシメディア50%14.70GB
オリジナルメディアとプロキシメディア100%14.70GB
52_table_05 エフェクトあり(カラーボード+音声ゲイン)/ProRes 422 HQ書き出し
エフェクトあり(カラーボード+音声ゲイン+テロップ)ProRes 422 HQ書き出し
オリジナルメディアのみ14.71GB
オリジナルメディアと最適化されたメディア14.57GB
オリジナルメディアとプロキシメディア50%14.71GB
オリジナルメディアとプロキシメディア100%14.71GB
52_table_06 エフェクトあり(カラーボード+音声ゲイン+テロップ)/ProRes 422 HQ書き出し

 52_table_04と52_table_05を比べると、音声エフェクトの有無で書き出し映像の容量に差はありません。しかし、画像にエフェクトを加えると、書き出し映像の容量が僅かに増えることがわかります。ProRes形式は可変ビットレートなので、映像内の動きや細かさといった情報の密度によって容量が変わります。試しに全く同じ長さで、無音の黒みを書き出してみると349.2MBでした。色補正やテロップを追加することによって、画像情報が変化し、書き出したファイルの容量に影響が出たのだと思います。
 テロップなど、映像情報の差で書き出したファイルに容量差が出るものの、どの場合も、オリジナルメディアのみと、プロキシメディアを作成したライブラリから書き出したファイルは同じ容量です。一方、最適化されたメディアを作成したライブラリから書き出したファイルだけは、容量が異なります。
 これは、書き出し時に参照しているメディアファイルの違いに原因があるのではないでしょうか。オリジナルメディアしかないライブラリの場合は、書き出し時にオリジナルメディアを参照して書き出しているはずです。また、プロキシメディアを作成したライブラリでは、書き出し時にビューアの表示設定をオリジナルメディアに切り替え、書き出し用の参照メディアをオリジナルメディアに設定します。
 つまり、オリジナルメディアのみのライブラリーと、プロキシメディアを作成したライブラリでは、どちらも書き出し時にオリジナルメディアを参照して、結果として同じ容量のファイルを書き出しています。それに対して、最適化されたメディアを作成したライブラリの場合は、最適化されたメディアを参照して書き出しているため、書き出したファイルの容量が異なるのだと思われます。

Compressorで書き出しテスト

 試しに、Appleのファイル変換アプリ「Compressor」で、同様の変換工程となるようにして、書き出しテストをしてみました。
 オリジナルのmp4ファイルをProRes 422 HQに書き出したもの、つまりこれが最適化ファイルを作成していない場合の書き出し映像と同様の変換工程です。
 もう一つは、最適化されたファイルを作成した場合の書き出し工程を再現します。AppleのFCPのマニュアルによると、最適化されたファイルはProRes 422形式です。mp4をひとまずProRes 422に変換し、このProRes 422ファイルをProRes 422 HQに変換します。結果は以下です。

変換工程書き出したファイル
オリジナルmp41.21GB
オリジナルmp4をProRes 422 HQ14.49GB
オリジナルmp4をProRes 4229.56GB
ProRes 422をProRes 422 HQ13.94GB
52_table_07 Compressorでの変換

 Compressorで書き出しをしてみると、さらに疑問が深まります。前項の、52_table_03「エフェクトなし/ProRes 422 HQ書き出し」で、最適化されたメディアを作成したライブラリから書き出したProRes 422 HQファイルは9.58GB。これと同じ工程を想定して、Compressorで書き出したProRes 422 HQファイルは13.94GBです。FCPで書き出したProRes 422 HQファイルは、むしろCompressorで書き出したProRes 422の容量に近いです。念のために、最適化されたメディアを作成したライブラリの「パッケージの内容」を開いて、最適化されたメディアのファイルサイズを見てみると、9.57GBで、Compressorで処理した「オリジナルmp4をProRes 422」の9.56GBとほぼ同じ容量です。最適化されたメディアを作成したライブラリで、エフェクトを全く適用していない場合、書き出し設定をProRes 422 HQに設定しても、実質ProRes 422で書き出している疑惑があります。
 最適化されたメディアを作成したライブラリで、書き出し時に強制的に演算をさせる目的で、タイムラインに配置したクリップを横方向に1px移動してみました。これをProRes 422 HQ形式で書き出してみると、13.94GBです。やや、希望する結果を出すために、恣意的に条件を追加しているような気もしますが、Compressorで書き出した、mp4→ProRes 422→ProRes 422 HQのファイルサイズと同じになりました。

最適化されたメディアを作成したライブラリから
「エフェクトなし/ProRes 422 HQ書き出し」(52_table_03)
9.58GB
最適化されたメディアを作成したライブラリから
「エフェクトなし/ProRes 422 HQ書き出し」で1pxずらした場合
13.94GB
最適化されたメディア(ProRes 422)の容量9.57GB
オリジナルをCompressorでProRes 422変換(52_table_07)9.56GB
compressorでmp4→ProRes 422→ProRes 422 HQ(52_table_07)13.94GB
52_table_08

 オリジナルメディアのみのライブラリでも、1pxずらした書き出しを試してみると、ファイルサイズは14.45GBになりました。クリップをずらさない場合、つまり、52_table_03「エフェクトなし/ProRes 422 HQ書き出し」の、オリジナルメディアのみのライブラリから書き出した場合よりも100MB(0.1GB)増えています。FCPでは、エフェクトの無いクリップの書き出しで、演算処理を効率化する「手抜き」的な処理が行われているのかもしれません。しかし、同じ処理工程を想定してCompressorで書き出したファイルに比べて、まだ40MB(0.04GB)少ないです。この場合は、1pxずらして強制的に再演算させても、Compressorで書き出したファイルと容量は揃いません。

オリジナルメディアのみのライブラリから
「エフェクトなし/ProRes 422 HQ書き出し」(52_table_03)
14.35GB
オリジナルメディアのみのライブラリから
「エフェクトなし/ProRes 422 HQ書き出し」で1pxずらした場合
14.45GB
compressorでmp4→ProRes 422 HQ(52_table_07)14.49GB
52_table_09

 FCPで書き出したファイルの容量差について検証する目的で、Compressorでの書き出しを行ってみたのですが、むしろ混迷してしまった感があります。それでも、ちょっとした条件の違いで、書き出したファイルの容量に差が出ることがわかりました。にも関わらず、オリジナルメディアのみのライブラリと、プロキシメディアを作成したライブラリから書き出したファイルは、ピッタリと同じ容量です。これらのライブラリは、同じメディア、つまりオリジナルメディアを参照して、同じ処理が行われていると考えて良いと思います。一方で、最適化されたメディアを作成したライブラリの場合は、オリジナルメディアではなく、最適化されたメディアを参照して書き出しているため、書き出したファイルの容量が異なるのだと思われます。

画質の違いについて

 この容量差が画質の違いにつながっているか、については難しいところです。容量差のある映像をざっと見比べても、画質の差は認められません。そもそも、最適化メディアを作成したライブラリからの書き出しで、本編の書き出し映像は容量が大きくなり、1カットだけを抜き出した場合は容量が小さくなる、といった具合に、最適化されたメディアを参照すると必ずファイルサイズが大きくなるというわけではありません。
 恐らく、FIXの画像や群集シーンといった要素で、圧縮効率の差が出た結果だと思われます。どの工程で変換すると画質が良くなる、といった「アップコンバート」のような効果があるのではなく、たまたま変換工程の違いから差が出ただけ、と思われます。
 つまり、準備する再生用メディアが、最適化されたものかプロキシかで書き出し映像に差はない、と考えて良いのだと思います。

 書き出し映像の容量差のことで、だいぶ話が長くなってしまいました。書き出し時間については次回記載します。

おまけ

 参考用に、AppleのProResについての解説ページから、ProResファイルのビットレートデータを転載します。
FHD、29.97fpsで

ProRes種別ビットレート
ProRes 422 HQ約 220 Mbps
ProRes 422約 147 Mbps
ProRes 422 LT約 102 Mbps
ProRes 422 プロキシ約 102 Mbps

 最適化メディアはProRes422。これを基準にすると、HQは150%、LTは70%、プロキシは30%となります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です