FCPで複合クリップの拡大とエフェクトとAmount
前回ご紹介した地震エフェクトを使用したときに気になったのですが、内部に高解像度のビデオクリップを配置した複合クリップに対して、地震エフェクトを適用した状態でその複合クリップに拡大処理を加えると、複合クリップ内に配置したクリップの解像度が生かされず解像度の低下したようなボケた仕上がりになってしまいます。そして、このボケはエフェクトのAmount設定を0に、つまりエフェクトの適用度を0に設定した状態でも発生します。
今回はFinal Cut Pro(ファイナルカットプロ 以下FCP)のタイムラインで、拡大処理に耐えるはずの複合クリップにエフェクトを適用した場合の解像度感の低下について記載します。
INDEX
複合クリップでの拡大処理
例えば1920×1080のFHD解像度のプロジェクト(タイムライン)にFHD解像度のクリップを配置して拡大処理を加えると、拡大とともに画像に解像度感の低下が目立ってきます。しかし、このタイムラインに3840×2160の4Kクリップを配置した場合、(理屈上は)200%までの拡大に耐えます。(全ての4Kカメラで撮影した映像がこういった拡大処理に耐えるとは限らず、センサーの性能やレンズ性能によっては200%までの拡大前に様々なアラが目立ってしまう場合もあります。)
複合クリップの場合も同様に、内部のタイムラインに高解像度のビデオクリップを配置した場合は、その複合クリップの内部に配置したクリップの解像度の耐えうる拡大率までならば、拡大処理しても画像がボケることはありません。例えば、内部のタイムラインに4K映像を配置した複合クリップをFHDのタイムラインに配置した場合、その複合クリップは200%までならば拡大しても画像がボケることがありません。
しかし、地震エフェクトを適用した場合は少し事情が違うようです。
地震エフェクトと複合クリップの解像度
内部に配置するクリップの解像度を変えた複合クリップを作成し、その複合クリップに地震エフェクトを適用した上で拡大処理した画像を比較してみます。ここでテストをするプロジェクトは、1920×1080のFHDタイムラインです。
テスト画像
エフェクト適用時の解像度の変化を確認するために、92_fig_01の画像を用意しました。この画像の解像度を、FHDのタイムラインに対して等倍となる1920×1080ピクセルのもの(FHD解像度)、4倍の解像度となる7680×4320ピクセルのもの(8K解像度)と、2種類用意します。この2種類の画像クリップに直接エフェクトを適用する、複合クリップ化してエフェクトを適用する、それらを拡大するといった処理を加えた場合の解像度の変化を確認します。
100%(拡大なし)の場合
先ずは複合クリップにしていない、画像クリップのままの状態での地震エフェクトの有無を比較します。92_fig_02は左右に等倍の、つまりFHD解像度の画像クリップを配置し、左が地震エフェクトなし、右が地震エフェクトを適用してAmountを0に設定したものです。左右の画像に解像度感の違いは見られません。
次に左右の画像クリップを4倍の解像度、つまり8K解像度の画像クリップに交換して、それぞれの画像を複合クリップにしたもので、地震エフェクトの有無を比較します。左が地震エフェクトなし、右が地震エフェクトありです(92_fig_03)。地震エフェクトのAmountを0に設定しているため、画面としては左右同じ見え方になるはずで、実際に左右の画像に解像度感の違いはみられません。このように、エフェクトを適用したクリップの拡大率が100%のときは、特に画像の解像度が低下することはありません。
400%拡大した場合
92_fig_03の複合クリップは、内部のタイムラインにプロジェクトの解像度に対して4倍の解像度の画像クリップを配置しているので、複合クリップ自体を400%に拡大処理しても解像度の低下は発生しないはずです。
実際に92_fig_03の複合クリップを400%に拡大処理したものが92_fig_04です。右の複合クリップに適用した地震エフェクトのAmountは0なので左右の画像は同じ見え方になるはずですが、左のエフェクト未適用の複合クリップに解像度の低下は見られないのに対して、右の地震エフェクトを適用した複合クリップはボケて見えます。
この解像感の違いは、地震エフェクトの揺れている場面、つまりAmountを0以上に設定した場合でも現れます。
92_fig_05では、画像クリップに直接エフェクトを適用した場合と、複合クリップに適用した場合を比較します。左は4倍解像度の画像クリップを複合クリップにせず、直接地震エフェクトを適用しAmount値を9.75に設定した画面です。右は高解像度の画像クリップを内部に配置した複合クリップに地震エフェクトを適用し、Amount値を9.75に設定した画面です。再生してしまうと揺れのブラー効果も相まってそれほど解像度の低下は気にならないものの、実際のところ右の画像はボケています。
つまり、高解像度の画像クリップに直接地震エフェクトを適用した場合は、そのクリップの解像度の許す範囲で拡大処理をしても解像度の低下は見られないのに対して、それを複合クリップ化したものに同じ処理を加えると、解像度の低下が見られます。そして、この拡大処理による解像度の低下は、エフェクト未適用では現れないのに対して、地震エフェクト適用時はそのAmount値が0であっても現れます。
地震エフェクトに限らない
この現象は、地震エフェクトに限ったことではないようです。同じディストーションカテゴリのエフェクト「水中」を適用してみると、やはり複合クリップでは拡大処理によって解像度の低下がみられます。92_fig_06は、右が4倍の解像度をもつ画像クリップに直接水中エフェクトを適用して400%拡大したもの、左が内部に4倍の解像度の画像クリップを配置した複合クリップに水中エフェクトを適用して400%拡大したものです。複合クリップ化したものに解像度の低下がみられます。
しかし、水中エフェクトの場合はエフェクトの適用率が「mix」というパラメータで、この場合はmixの値を0%にすると複合クリップの解像度は回復します(92_fig_07)。
エフェクト適用率パラメータの違い
同様に適用率のパラメータが「Amount」のブラーエフェクトで試してみると、やはりAmountの値を0に設定しても解像度の低下がみられました。エフェクトの適用率を設定するパラメータが「Amount」の場合は、適用率を下げても解像度は回復しないようです。
「Amount」は量を示します。つまりエフェクトの強さを示し、値が0の時もそのエフェクトをバイパスした状態にはならず、エフェクト量が0として処理されているようです。これに対して「mix」は混合率を示し、元の画像(映像)とどの程度重ね合わせるかという設定になります。そのため、パラメータ名が「mix」の場合は0に設定することで元の画像を表示している、つまりエフェクト処理を経由していない状態になるようです。
解像度低下の理由と複合クリップの解像度設定
4倍の解像度をもつ画像クリップに直接エフェクトを適用した場合と、内部に4倍の解像度の画像クリップを配置した複合クリップにエフェクトを適用した場合で、拡大処理を行ったときに解像感の違いが出るのはなぜでしょうか。複合クリップの方に、内部に配置したクリップの解像度を発揮できない原因があると思われます。
高解像度のビデオクリップは、タイムラインの設定よりも多くのピクセル数をもち、それを空間適合処理によって縮小された状態でタイムラインに配置されています。この高解像度ビデオクリップの情報インスペクタで解像度情報を確認してみると、ウィンドウ右上に「7690×4320」と表示されており、解像度が正しく認識されているのがわかります(92_fig_08)。
一方で、内部に高解像度の画像クリップを配置した複合クリップの情報インスペクタウィンドウを見てみると、1920×1080とFHD解像度の複合クリップとして認識されているようです(92_fig_09)。
この複合クリップにエフェクトを適用せずに拡大処理を加えても画像がボケることはないので、必ずしも情報インスペクタでの解像度認識が拡大時の画像の解像度感を左右するわけではありません。しかし、エフェクトを適用した場合には、情報インスペクタでの解像度認識が拡大処理時の画像の解像度感の低下に関係していると考えられます。
情報インスペクタウィンドウには「変更」というボタンがあって、解像度設定などを変更できそうに見えます。しかし、変更ボタンを押して現れる設定画面で解像度を変更しても、情報インスペクタウィンドウの解像度表示は変更されません。
高解像度複合クリップの作成
複合クリップの解像度は何を元に設定されているのでしょうか。複合クリップを作成するタイムラインの解像度設定が複合クリップの解像度設定に反映されているようです。つまり、より高解像度の複合クリップを作成するには、作成したい複合クリップの解像度と同じ解像度のプロジェクトを作成し、そのタイムライン上で複合クリップを作成します。
例えば、4Kプロジェクトのタイムライン上で複合クリップを作成することで、4K解像度の複合クリップを作ることができます。FCPのプロジェクト作成ウィンドウでは、8Kまでのプリセット設定があります。それ以上の解像度は、カスタムで設定します。もちろん、高解像度の複合クリップの内部には、それに見合った解像度のクリップを配置する必要があります。
高解像度のプロジェクトを作成するとき、アスペクトレシオに注意が必要です。プロジェクト作成ウィンドウの4Kや8Kといった「フォーマット」を設定する項目の下に「解像度」という項目があり、画面の縦横のピクセル数を設定します(92_fig_10)。この値が配置したいタイムラインの縦横比と同じ比率になっていないと、縦横比が揃わず上手く画面に収まりません。
例えば、FHD画面に配置する複合クリップを作成する場合、1920×1080と同じ縦横比となる3840×2160や7680×4320といった解像度設定を選択します。
高解像度複合クリップへエフェクトを適用した場合
92_fig_10は、左が内部に4倍解像度の画像を配置しているもののFHD解像度のタイムラインで作成した複合クリップ。つまり、FHD解像度の複合クリップです。一方右は、内部に同じ4倍解像度の画像を配置し、なおかつ8K解像度のタイムラインで作成した複合クリップです。つまり、内部の画像も複合クリップそのものも8K解像度がある複合クリップです。
それぞれに地震エフェクトを適用して400%に拡大すると、8K設定の複合クリップでは解像度の低下は発生していません(92_fig_11)。
92_fig_12は、92_fig_11と同じ設定の複合クリップに水中エフェクトを適用して400%に拡大したものです。92_fig_11と同様に、8K設定の複合クリップでは解像度の低下は発生していません。
この方法だと、複合クリップの拡大率によっては随分と大きなプロジェクトや複合クリップを作る必要があり、レンダリング時間が気になるところです。しかし、8K解像度設定の複合クリップを作成・配置しても特に処理が重くなるといったことは感じません。高解像度の画像クリップをタイムラインに配置する負担と同程度と捉えて良さそうな印象です。また、書き出し時間が若干増えたような気もしますが、僅かな差だと思います。
まとめ
拡大処理に耐える高解像度のクリップを内部に持つ複合クリップは、エフェクトを適用していなければ拡大処理によって画像がボケることはありません。しかし、エフェクトを適用したときに、そのエフェクトの種類によっては拡大処理による解像度の低下がみられます。
これを回避するには、複合クリップ自体の解像度を上げる必要があります。高解像度の複合クリップを作成するには、それに対応した解像度のタイムライン上で複合クリップを作成します。もちろん、複合クリップの内部に配置するクリップの解像度が、それに見合った値である必要があります。
また、エフェクトの適用量を示す「Amount」の値が0であっても、上記のような拡大処理による解像度への影響は発生します。一方、エフェクトの適用量のパラメータが「Mix」のときは、その値を0に設定するとエフェクトがバイパスの状態、つまりエフェクトを適用していない状態になり、上記のような拡大処理による解像度への影響はなくなります。